きみの手(甘々)
王太子と戦ったときスースは腕を失った。
戦いには勝ったが、魂魄が飛んだ後スースは虚空を見つめ、その後も何日か元気がないようだった。
お、スース…
城の中庭に太公望はいた。中庭には食堂代わりにいくつかテーブルと椅子が置いてある。
利き腕を失って食が進まないらしく、スースは野菜の並んだ皿を前にボーッと座っていた。
その姿が何とも頼りなげで。
気がつくとすぐそばまで歩を進めていた。
「なんだ、カバっちも武吉っちゃんもいないのか」
「天化」
「手伝ってやるさ」
向かいに座ってカボチャを差したフォークを突き出した。太公望が一瞬きょとんとした顔をする。
「ほら、口開けな」
「かたじけないのう」
そう言って太公望がカボチャを一口、口に入れた。
「利き腕がないと不便だろ?」
「うむ、これでは桃も満足に剥けんからのう」
桃か、他にももっと色々あるだろと天化は心の中で苦笑した。
もぐもぐと咀嚼する姿はまるで動物の餌付けをしているようだ。
「戦うのは俺っち達に任せて、あんたは頭だけ働かせてりゃいいのさ」
「そういう訳にもいくまい」
そう言った太公望の口調はいつになく真剣なものだった。
だがその直後には、もう一口、と口を開けた。
可愛い…。
「世話が焼けるジジイさ…」
「なんだと?」
太公望が望むのなら毎日こうして世話を焼いてもいいかも…と思ったそのとき、蝉玉と土行孫がやってきた。
「あら、見てハニー、あそこの二人ラブラブね。私たちも負けずに『はいあーん』しましょっ」
ラブラブ…
その響きがやけに甘ったるく聞こえて天化は頬を赤らめた。
な、何言うさあのアホ女…別にそんなつもりじゃねえさ…
スースに聞こえたらどうするさ。
「でもなんか恋人同士というより老人介護してる孫とおじいちゃんみたいねえ」
「…っ!!」
「ど、どうした?天化」
赤くなったり青くなったりする俺っちを心配してスースが覗きこんできた。
あのアホ女、男だったらぶっ飛ばしてるさ…。
2011/10/18
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