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16.なんで彼女が







私は、見ては行けない場面を見てしまったんだ。
とても衝撃的だったのだ。
今でもあの光景が忘れられなくて、胸の鼓動は目覚時計の様に煩く鳴り止まない。



ことの発端は数時間前だった。
今日は残念ながら神田が風邪で休んで代わりに私がバイトに出ていた。

ちきしょー。馬鹿の分際で風邪ひいてんじゃねーよー。おっしゃ復活したらこき使ってやろう。なんて性悪な考えを抱きつつもバイト帰りにお見舞い行こうと思っていた。
今日は月曜日だったのと夕方だったため、学校帰りの男子生徒や、仕事帰りのオジサンやらが、ジャンプを立ち読みしてた。ジャンプって素晴らしい!
なんていつもの様にレジに立っていて時間は過ぎて行った。



「お疲れ様でーす。」



そう言って、帰り支度をして出て行って時計を見れば、6時半だった。
十月に入って、日が落ちるのが早くなり、少々冷たい秋風が全身に伝わって、制服のポケットに手を突っ込み、先程買った飲み物や食べ物の入ったビニール袋を持ち、神田の家へと向かう。

だんだん辺りが暗くなって行く中、親に心配されたらどう言い訳しようかと思いながら、公園前を通れば若い男女がイチャこらしている姿が見えた。
可愛いなとか、ばば臭いことを思い眺めてれば、うちの学校の女子と神田の学校の男子だというのに気付いた。

神田の元へ行こうと踏み出し公園を通り過ぎようとした時、静まり返った辺りで、あの二人の声が聞こえ不意に耳を傾けてしまった。



「・・・び可愛い・・・」

「ふふっ駄目だよ。誰かに見られちゃうよ。」



聞き覚えのある女の子の澄んだ可愛らしい声に、心臓がドクンと跳ねた。
まさかと思い頬を伝う冷や汗を拭いながら、半信半疑でもう一度耳を傾け、盗み見た。



「雅キスしてい・・・?」

「・・・・・・うん。」



ミヤビ
黒くキレイでふわふわしたショートヘアーに澄んだ漆黒の瞳、そして小柄な容姿は雅ちゃんだった。
隣にいるのは、アレン・・・ではなく、もっと長身で黒い艶めいた短髮の男。
二人薄い影は微かに残る夕日の茜色と蛍光灯に照らされ、重なっていた。



「・・・・・・っ」



私は余りの光景に驚き、焦り、吐き気に襲われながら、走り出した。



「・・・っはぁっ、はぁっ・・・!」



無我夢中で走り続け、辿り着いたのは自宅だった。
突然走った故、脈が正常出なかった。
私は呼吸を整え、家に入り静かに部屋へ向かった。
月明りに照らされた暗くて酷く静まり返った部屋で、私は止まらない汗を拭っていた。



「あ・・・神田・・・」



あんなことがあったせいで、すっかり忘れていた。なんだか申し訳ない。
でもあんな場面を見た後で、彼の家に行くのは、どうも気が進まない。



「・・・・・・はぁ・・・・・・。」



私は未だに煩い鼓動と震えを落ち着けようとしていた。
でも、明日の事を考えると、もっと悪化する。
雅ちゃんは他の教室だけど、アレンとは同じ教室だから今より余計気まずくなるかもしれない。



アレンに凄く愛されているあの子が、
アレンの瞳に映されているあの子が、
私が掴めなかったアレンの心を掴み、
アレンを笑顔にしているあの子が、





アレンを裏切った。





乱れゆく呼吸と渇いた喉
そして止まらぬ震えと頬を伝う涙



私はただ静かに泣いていた。






2009.10.22






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