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嘘に紛れた真実/高杉



不安だった。

彼の心が離れて行く気がして。

実際離れてたのかもしれない。

それならこのままでいい。


最近の彼は前みたいに笑ってくれもしなければ、優しく抱き締めてくれなくて、温もりを感じない中、体を重ねるだけだ。
重ねたと思えば、どこかへふらりと消えて行くし、帰って来たと思えば、乱暴な冷たい愛撫だけだ。
また子や万斉に出掛けた理由を聞いても、ぎこちない反応をして、話を逸らすばかり。
それが鬼兵隊全員が同じだから、さすがに奇妙に思い、再び船を降りる彼を追って行けば、綺麗に着飾った女子や、スッとしたスーツを着こなす男達の勧誘が多い、ネオン輝く色街だった。



「高杉はんや!!」

「またうちに来てくれはるんです?」

「高杉はんなら大歓迎ですわぁ。」



高く可愛らしい声の持ち主らは、彼を囲み店へと入って行く。
彼はただ彼女らにつられ入るだけ。

 わたしはその光景を呆然と立ち尽くし見ていたが、涙や憎しみ怒りなど、嫉妬の塊が沸き出るようなものは無かった。
元々彼の心が離れて行ってるのを、薄々勘づいていたからなのだろう。
でも、それを改めて確信したから、わたしの恐怖と不安は大きくなり、深い闇へ陥ってしまった。



「お姉さん。一緒に飲みませんか?」



香水を付けスーツを着こなした、美青年が肩に触れながら声を掛けて来た。
わたしは過剰に反応したと同時に、恐怖のあまり触れられたところから、ゾクゾクと寒気を感じた。



「い…いやぁ……!!!!」



わたしは叫び、その場を逃げ出した。
今日は冷えるのも忘れて、行く場所なんて無いのも忘れて、帰ったって独りなのも忘れて、只ひたすら遠くへ遠くへ走った。

気が付けば、辺りは月の明かりで照らされ、静まり返る中、寒気でなのか、恐怖でなのか、分からないくらい真青な顔で震えている自分がいた。



「ねぇ…晋助……

あなたはわたしを愛してる………?」



嘘でも言って欲しい、

でも届くはずがない。

月夜の中小さくなり、

涙だけが零れ落ちる。



「何もかもが嘘だった…?
優しい笑みも…愛してるの言葉も…、何もかもが偽りだった…?」



見放されたなら、最初からいらない存在なら、どうせ嘘の中で一人生きるのなら………、



「死んだ方が楽だわ。」



わたしは手持ちの小刀で腹を切った。
着ていた衣服は色鮮やかな紅に浸食される。気温が低いのもあり段々体温が低くなり、息が乱れ、意識が遠のく。



「さよ…なら………


    愛…してるよ………晋…助…………」



色街を出て船に帰ると、隊員達がやけに騒がしかった。
万斉に聞けば、あいつが出掛けたまま帰って来ないとの事だった。
昼間や夕方にいないのはたまにあるが、もう街が寝静まった真夜中だ。
俺の頭に嫌な予感がよぎり、隊員に捜索令を出した。

俺から逃げ出すなんて許さねぇ……
もう独りになるなんてごめんだ……



無我夢中で江戸中を探した。
思い当たる場所をいくつか行ってみるがいなかった。
雨が降って来た。早く探さなけりゃあ、あいつが風邪をひいちまう。
俺は先程より早く走った。しばらく捜していると、何かが倒れていた。
不審に思い、近付けば女が真っ青な顔をして、赤黒く染まっていた。
ただ死体と思い立ち上がったら、女の顔が彼女にそっくりだったのに、気付いた。再度確認すればやはり彼女だった。


俺は驚きと失望のあまり、しばらく呆然とそれを見ていた。
我に返り、彼女の死を確認した途端、視界がぼやけた。
彼女への愛が伝わらなかったのか、色街ばかり行ってろくに話していなかったからなのか…そう思うと後悔が波のように押し寄せ、俺を追い詰めた。



「…ちくしょー………!!
なんでお前は俺を一人にするんだ…!!
なんで俺の想いを分からねぇんだ…!!」



そう言っても、彼女の目は閉じたままだ。俺の視界は歪むばかり。
その理由を認めたくない。歪むのも目が濡れているのも何もかも、雨のせいなんだ。



「……愛してる………」



それだけは分かって欲しいかった、それだけが嘘に紛れた真実なんだ、





祝宴様提出
死ねた意味不明すぎて泣きそう
2010.01.05







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テーマ「人外ファンタジー」
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