nagareboshi | ナノ
 放課後になった。不二君がテニス部の部室まで連れて行ってくれると言ってくれたから、不二君の後ろを歩いて部室へ向かう。聖ルドルフの制服を着ていても、周りの視線は凄かった。

部室らしき部屋まで着くと、不二君は何の躊躇もなしにガラリと扉を開ける。
「こんにちはー赤澤さん、ちょっと良いですか?」
「ああ何だ…っと、彼女は?」
「今日俺のクラスに来た転校生です」
「あ、えっと、苗字名前です。部長さん…ですか?」
「ん?ああ転校生か。俺がテニス部部長の赤澤だ。もしかしてマネージャー希望か?」
「は、はい!」

どうやらこの人が部長さんらしい。私は思わず肩を上げて返事をする。不二君は部長さんの指示でさっさと部室に入ってしまい、残された私は部長さんにビビってしまう。(白石が、穏やかすぎるだけなのかな…)四天宝寺とはだいぶ違う雰囲気だ。まあ当たり前だけど。

「あ、あの、」
「ちょっと待ってな。おーい観月」

(みづき?)すると長袖のジャージに身を包んだ上品な人が中から出てきた。ばちりと目が合うと、全身をまじまじと見られた。何だか恥ずかしい。

「えーっとこいつは苗字名前、マネージャー希望らしい」
「ああ知っていますよ。今日から一年三組の苗字さんですね。一年に可愛い女子の転校生が来たと柳沢が騒いでいました。マネージャーの経験はありますか?」
「え?あ、はい!中学の三年間と、高校に入ってからの何か月かはやってました。転校が決まって退部しましたが…」
「ならば問題無いでしょう。未経験の素人は困りますからね、今日からよろしくお願いします苗字さん。んふっ」
「(んふ?)よ、よろしくお願いします!」

にっこりと微笑んだその人は、観月はじめと名乗った。観月先輩はマネージャー兼選手らしい。まさかマネージャーが男子だとは思っていなかったが、何だか急に不安になってきた。そして部室の中を案内されて、観月先輩や赤澤先輩に仕事やテニス部のこと、そしてメンバーの事を教えてもらった。(び、びっくりするほど分かりやすい説明だった…)

「それじゃあ苗字さん、このジャージを着て下さい」
「え、あ…これテニス部のですよね、初日から良いんですか?」
「はい、練習が終わってからメンバーの皆さんに紹介するので、きちんと着ておいてくださいね」
「分かりました!」

 それからは観月先輩の仕事を見学し、見て覚えながら選手たちの練習を見学した。不二君の練習している姿を見つけると、つい目で追ってしまう。それは何となく、仲が良いからだろう。ふと目が合ったときに笑ってくれるのが凄く友達っぽくて嬉しくなる。

「そういえば苗字さんは、裕太君と仲が良さげでしたね」
「あ、そうなんですよ。友達なんです」
「んふっ、そうですか。転校初日だというのに早いですね」
「昨日に知り合ったんです、職員室まで連れて行ってくれました」
「おや、そうでしたか」

観月先輩は優しく笑う。何だか紳士的な人だが、たまに出てくる「んふっ」がとても気になる。口癖かな…珍しい人だ。




「はあーっ、疲れたー…」
「お疲れ様です。明日の朝練は来れますか?」
「あ、はい大丈夫です。朝には強いので」
「それなら良かった。ああそうでした、苗字さん」
「何ですか?」

観月先輩は自分の携帯を取り出して、「番号を交換しませんか?」と聞いてきた。私が呆気としていると、「マネージャー同士、色々と交換するべき情報がありますからね」と続けられて思わず頷く。そしてメアドを交換すると、赤澤先輩が皆に紹介するからと私を呼んだため観月先輩から離れる。すると、観月先輩が何かを呟いたが私には聞こえなかった。

(んふっ、面白い子ですね。興味深い…)


 20120820