nagareboshi | ナノ
 聖ルドルフ学院高校。そう書かれた校門の前に一人で立っていた。親が書いてくれたメモを見つめるとそこにも「聖ルドルフ学院高校」と書かれている。ああやっぱりここか。私が新しく通う学校。しかし東京に帰ってきたのは良いものの、少しばかり風景が変わっているだけで何も変わっていなかった。

私はとりあえず四天宝寺の制服を着て、校門をくぐる。(何か、周りの目が痛い…)じろじろと周りの生徒に見られながらも、私は校舎に入って職員室を探す。

「………あれ?」
ここは一体どこなのだろうか。よく分からなくなってしまった。これはつまり迷子というわけか。何だか急に恥ずかしくなってきて、ついキョロキョロと周りを見渡す。ちらほらと歩いている生徒の中から、声を掛けやすそうな生徒を探す。(なるべく…なるべく同学年っぽい人……あ!いた!)

「あ、あの、すみません」
「え?」
「職員室って…ど、どこですか?」

声を掛けたのは茶髪の男子。何となく同い年のような気がしたから声を掛けてみたものの、どうして男子に声を掛けてしまったのか後悔した。ぱちくりと数回瞬きをしてこちらを見る男子生徒は、「他校生?」と聞いてくる。(あ、そっか…)

「私、大阪の学校から転校してきたの。だから職員室の場所が分からなくって…」
「あーなるほど。んじゃ付いて来いよ」
「あ、ありがとう」

くるりと向きを変えて歩きはじめる男子生徒の後ろに付いて歩いていると、何だか周りの視線が凄い。他校の制服を着ているからなのか分からないけれど、思わず俯いて歩いた。

「ここ、職員室」
「意外と近かったんだ…ありがとう、えっと」
「俺は一年の不二裕太。三組だから同じクラスになった時はよろしくな」
「あ、うん不二君ね。こちらこそよろしく」
「おう。そんじゃ俺部活行くから」
「部活やってるんだ、何部?」
「テニス部」
「!え、」
「何?」
「あ、ううん、何でもない」
「そう、んじゃ」
「う、うん」

軽く手を振って去って行く後ろ姿を見ながら、少しだけ唖然。大阪の方でマネージャーをやっていたから、ここでもマネージャーをやろうと思っていたけれど、まさか不二君がテニス部だったなんて。しかも思った通り同学年だったし、仲良くなれそうかもしれない。ちょっとした期待を胸に、職員室をノックした。


 校門をくぐり出て、軽く息を吐く。(つ、疲れた…)担任になる先生と少し話をして、学力だとか部活だとか委員会だとか先生は色々と教えてくれた。テニス部のマネージャー経験があるから部活はテニス部に決めようと思っていると伝えると笑顔で良いんじゃない?と言ってくれたから、頑張ってみようかな!
心の中でグッと手を握り、思わずニヤけてしまう。そうだ、どうせだしこのまま久しぶりの東京を探索でもしようかな…。

「ちょっとくらい遅くなっても、良いよね」
勝手に自己完結し、私は足を進める。まずは近くのコンビニにでも行ってみよう。わくわくした気持ちに思わず鞄を握りしめて、コンビニへと向かった。

「全然変わってない…」
ぽつりと呟く。コンビニだし、潰れていてもおかしくないとは思ってたけど全く変わらずそのまま残っていた。思わず中に入るのを躊躇してしまったが、携帯を片手に中に入った。

 それからしばらくコンビニを堪能して、家へと向かった。少し暗くなった空と冷たい風。夏なのに、今日は日が落ちるのが早かった。

「……あ、」

ふと見つけた後ろ姿。先ほど見たばかりだからまだ覚えてる。あれは不二君だ。私は思わずその後ろ姿に駆け寄った。

「不二君!」
「!……あ、さっきの…」
「部活はもう終わったの?」
「ああ、終わった。お前は何でここにいるんだ?」
「久しぶりの東京だから、ちょっと寄りたくなったんだ。このコンビニまだあるんだね、びっくりしちゃったよ!最後に来たの6年前だったから、もう潰れてるかと思った」
「…お前、大阪から来たんじゃなかったか?」
「あ、そうそう。けど生まれは東京なの。小学生の頃に親の都合で大阪に行く事になって、それからはあっちに居たんだけど…また戻ってきたってこと」
「ふーん、そうだったんだ。じゃあここら辺詳しいのか」
「もう6年も前だから、あんまり自信はないけどね」
「そっか」

にっこり笑って返事を返すと、いきなり携帯が鳴りだした。びっくりして肩が上がったが、不二君の携帯じゃなさそうだったから自分の携帯を取り出す。メールじゃなくて電話だった。私はディスプレイを確認する。その途端、口元が震えて動かなくなった。

「……?おい、どうしたんだ?」
「っ、え?あ…う、ううん、何でもない…何でもない!わ、私もう帰るね、ばいばい」
「、あ……!」

私は携帯をポケットに詰め込んで、顔を隠すようにして不二君の横を通り抜けるようにして逃げる。そのまま家までダッシュした。息を切らして、ただ走る。
 ディスプレイに記された知らない番号。きっと、謙也だ。かすかに覚えているその番号は、それでもしっかりと私の頭に残されていた。だから分かる。突然の電話が、やけに怖く感じた。(思い出したくないのに、なんで、)

家に着くとただいまと言うのも忘れて自室へ引きこもる。乱暴にドアを閉めて、その場にうずくまった。しばらく息を整えて、携帯を出そうとポケットに手を突っ込む。…しかし、

「…え?」

携帯は入っていなかった。

(やばい、まずい、あの時落としたんだ)

 20120820