nagareboshi | ナノ
 土砂降りの雨の日だった。目の前の彼が、歪んだ瞳で私を見る。なんて最悪な雨の日だろう。涙で掠れた喉から必死に、最後の彼への言葉を絞り出した。
「   」
その後すぐ彼が何か言ったような気がしたが、そんなの耳に入らずに私は家へと走って逃げた。

流れ星
(食べ残した愛なんて味のないガラクタなんだ)


父親の転勤が多い家庭だったため小学4年生の時に一度、東京から大阪へ転校している。だから今回の転校は、故郷へ戻るような物だろう。対して抵抗も無かったし、嫌だと言う理由もなかった。だけど私には、付き合って三年の彼氏がいたのだ。
新幹線の中で二枚の写真を見つめる。テニス部の皆と撮った最後の写真。皆が笑顔で、私はそんな笑顔の皆に囲まれて、笑っていた。すごく幸せな時間だったと思う。もう一枚は、彼氏の謙也とのツーショット。

「……っ、謙也、」

堪えた涙が溢れだした。
只でさえ仕事で忙しい父親に、我儘なんて言えなかった。両親はもう先に東京に行っており、新しい家の準備をしてくれている。今からでも引き返したかった。誰も私を止める人はいない。だけど、それでも、溢れ出てくる涙は私なりのけじめのつもりだった。

もう、泣かない。泣いたら思い出してしまうから、これは最後の涙にしよう。
向こうの学校はどんな感じなのかだとか、友達できるかなだとか、そんな事を考える余裕もなく。ふと鳴り出した携帯のディスプレイに記されている「謙也」という文字を見て、また涙を流した。そしてそのまま、拒否のボタンを押して彼のメアドも電話番号も消去する。これが、私のけじめ。涙も、消去したアドレスも。こうでもしないと私は彼を忘れられないから。
別れがこんなに辛いものだなんて、知らなかった。

(もう彼を忘れようと、決心した夏のこと)


 20120819