nagareboshi | ナノ
 せっかくの休日だと言うのに観月先輩に呼びだされた。しかも学校に集合とのこと。急いで支度をしたものだから私服のまま学校に向かってしまったが平気だろうか。
しばらく走ると校門のところに先輩達が集まっていた。そこには裕太君もいて、つい先日の雷と停電の事件のことを思い出してしまう。赤くなりそうだった顔を隠しながら観月先輩に声を掛けた。

「先輩!」
「おや苗字さんも来ましたね」
「遅れてすみません…」
「平気ですよ。突然呼びだしたりしてすみませんでした」
「い、いえ」
観月先輩から視線をずらせば裕太君と目が合った。ばちりと音でも鳴りそうなくらいに見つめあったかと思いきや裕太君が普通な顔で話しかけてくる。
「よう名前」
「あ、こ、こんにちは裕太君」
裕太君は私服だった。思わずドキリと胸が鳴る。いつもの裕太君とは違う。何だかセンスの良い私服だった。何故か自分の私服が恥ずかしくなってきて目を逸らせば裕太君が言った。
「私服、似合ってんじゃん」
「!」
何だかタイミングが良いのか悪いのか分からないけど素直に嬉しい。「ありがとう、裕太君の私服も格好良いよ」と返せば木更津先輩がクスクス笑いながらこちらを見ていたことに気付き焦った。

「それでは皆さん集まりましたね。話を始めます」
観月先輩は咳払いをしてから口を開いた。
「結論から言うと、四天宝寺との練習試合の日程が早まりました」
その言葉に、私は思わず息を飲んだ。隣にいた裕太君がそれに気づいて、私を心配そうに見つめる。

「あちら側の予定が狂ってしまったらしく、来週の土曜日に行いたいと連絡が来ました」
「その練習試合は四天宝寺でやるのか?それともウチでやるのか?」
「その件については四天宝寺のコートでやらせて頂くようです。あちらの監督からもそう聞かされましたからね」
「そうか。でもそれならわざわざ今日じゃなくて次の部活の時に言うんでも良かったんじゃないか?」
「練習の都合上、今日知らせるのが一番良いと思ったんですよ。……それに、」

観月先輩がそう言って私を見た。目が合って、私は思わず逸らしてしまう。
 正直、心の準備なんてできていなかった。今までずっと逃げてきて、結局観月先輩にも迷惑をかけてしまって。光のことだって謙也のことだって、何も解決しないまま結局あの日私は四天宝寺に挨拶だけして帰ってきてしまった。謙也の顔を見た途端、何も言えなくなって、ただ逃げることしか頭になくなってしまったから。
裕太君も、力になってくれた。私を励ましてくれて、絶対勝とうって言ってくれた。私はそれにすごく安心して、今日まで頑張ってこれた。それなのに肝心の心の準備が、まだできていなくて、

「名前、大丈夫か?顔色悪いぞ」
「…う、ん。大丈夫だよ、ありがとう裕太君」
裕太君が声をかけてくれて、やっと自分の世界から抜け出した。そうだ、今はちゃんと話を聞かないと。
 動揺を隠せない私を見て、裕太君はどこか不安そうな顔をした。それに私は気付かずに、ただ必死に観月先輩の話を頭に入れる。



 先輩の話が終わると、そこで解散となった。
私と四天宝寺の事情を知らない先輩達は、なぜわざわざせっかくの休日にまるで大事のような口ぶりで呼びだしたのだ、と。話はそれだけなのか?と口をそろえたが、そう思うのは当たり前のことだと思った。
あの日、私と観月先輩が四天宝寺に挨拶に行ってから、観月先輩はよく私を気にするようになった気がする。本当のところは、よく分からないけれど。

次の日からは、今までよりも厳しい練習が始まった。観月先輩は何かにつけて「必ず勝ちますよ」と言うようになった。
それに対し私は、少しだけ、罪悪感を感じた。

私が、聖ルドルフに迷惑をかけていることに変わりはないと思ったから。



 20130328