nagareboshi | ナノ
 翌日の朝練行くと、不二君が居た。扉を閉めると同時に不二君は「おはよう」と普通に声を掛けてくれる。自分のロッカーに鞄を詰めてから笑顔で返した。

「昨日…その、大丈夫だったか?」
「え?」

思わぬ言葉に驚いて不二君を見た。不二君はどこか赤く染まった顔を私から見えないように逸らして、ぽつりぽつりと言う。

「い、色々…お前のこと、傷付けたし…だ、だから、俺にできる事があるなら、言ってくれ」
「ふ、不二く…」
「とっとにかく!この前のこと、本気で悪かったと思ってて…!」

真っ赤になりながら言う不二君を見て、どこか笑えてしまった。いやそれよりも嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。そんな私の顔を見た不二君は余計に顔を赤くして「な、何笑ってんだよ!」と叫ぶ。不二君は以外と感情豊かな人なんだな。それよりちょっとうるさい気もする。

「不二君、落ち着かないと先輩達来たら怒られちゃうよ?」
「っそれ…!」
「え?」
「不二君って、紛らわしいから…やめろよ」
「紛らわしい?」

不二君が紛らわしいってことは、この学校内に兄弟がいるのかな?でもそんな話は聞いたことがない。なら何でだろう。ちょっと考えたけど答えは一向に出てこなかったから考えるのはやめた。

「じゃあ何て呼べば良い?あ、裕太君とかどうかな」
「…それで良いよ」
「うん、じゃあ裕太君。私そろそろコート行くね」

裕太君も早くおいでね?と残して部室から出ようとした。だけど、ドアノブを掴もうとした手が裕太君に掴まれてしまい動かない。私は何事かと思い裕太君を見つめた。

「ゆ、裕太君?」
「お前だけずるいだろ」
「え?」
「名前」

いきなり名前を呼ばれて驚いた顔をしてみれば、裕太君は途端に真っ赤になった。強引なのかシャイなのかよく分からない裕太君に、また笑いがこぼれる。私が「うん、じゃあ私のことも名前で呼んでね」と告げると、裕太君はどこか嬉しそうに私の手を離した。

「朝練頑張ろうな、名前」
「うん!」


 20121203
やっぱりシャイな裕太君も良いと思って