sketch | ナノ
 …どういうわけか、野球部が練習をしている第二グラウンドまで連れてこられた。(完璧に強制だよね?私に拒否権とかないよね?)こういうのはイジメになりますか先生。

「っつーわけで、苗字を連れてきた」
「どういうわけだよ!!」

真っ先に叫んだのは、昨日の人だ。確か阿部君。その隣にいるのは、三橋君。私は思わず声を上げた

「「あ!」」

どうやらそれは三橋君も同じだったらしくて、私と三橋君が見事にハモった。阿部君は「三橋?」と三橋君に声を掛ける。三橋君は真っ赤になりながら「さ さっき、の!」と私を見つめる。「苗字さん!」ハッキリと名前を呼ばれた事によって、私の心臓はまた締め付けられた

「なんだお前ら、知り合いだったのか?」
「ふ フヒ…」
「あー!!名前じゃん!!」
「えっ?あ、田島くっ――」

 ぼふん!また抱き着かれた。犯人はあたりまえに田島君。首を思いきり締められたから窒息死しそうになって花井君に助けを求めた。背の高い花井君は私より何センチも高いから、隣に立たれると見上げるのが大変だ。田島君は身長が低くて、私はそれより5センチくらい低い。何だか花井君は色んな意味で救世主だ

すると阿部君が呆れたような顔で口を開いた。

「っていうかソイツ昨日の放課後、俺達の練習みて泣い―――ふぐっ!?」
「ちょ、っと!!来て!!」

まずいまずい!それは皆に言うような事じゃないでしょ!そう怒鳴ってやりたい気持ちになったが我慢して阿部君の腕を思いきり引っ張った。そして向かう先は、グラウンドから離れた人通りの少ない場所。私は緊張と焦りに息を切らしながら阿部君を睨む。

「…昨日泣いてたのはっ、野球部のせいじゃなくて…!」
「じゃあ何なんだよ」
「え、っ」
「言えない事なのか?」

 上から思いきり見下ろされた。その不機嫌そうな声に少しだけ怖くなったけど、それでも理由は言えなかった。するといきなり腕を掴まれ、後ろの壁に押さえつけられる。

「いっ、た!」
「お前さ、三橋の事好きだろ?」

(…え?)ちょ、ちょっと待て。何で阿部君、え?というよりさっきまで私はマネージャーの勧誘をされていたハズなのに…いきなり阿部君に泣いてた事バラされそうになって、そんで口封じしようとここまで連れてきたら三橋君の事が好き!?ってなんなの。この人って一体何者なの

「な、何で…」
「顔に書いてあるんだよ。三橋の事が好きって」
「!!」
「さっき三橋と話してた時も、すげー嬉しそうだったしよ」

う、うそ…。好きな人って、こんなにも簡単にバレちゃうモノなの?い、いや、違うよね。私が分かりやすいだけ?それとも阿部君が鋭いだけ?こ…混乱してきた

「反論しないって事は、好きなんだな?」

それにしても阿部君はなんでこんなにグイグイ来るんだろう。人の恋愛とか全く興味なさそうなのに…!ま、まさか興味なさそうな顔しといて恋バナ大好きなお茶目さん!?(うわあ、お世辞にも似合ってると言えない…)

「そ、そりゃまあ、その、好き…だけど」
「お前って趣味悪いな」
「ええ!?」
「三橋なんて、どこが良いんだ?ウジウジしてっしロクに会話もできねぇし…」
「み、三橋君は……」

 優しくて、真っ直ぐで…。私も三橋君をよく知っているわけじゃない。むしろ全然知らない。だけど、あの時に私が見た三橋君は、とても綺麗な眼をしてて、気を緩めたら吸い込まれそうだった。確かに三橋君の第一印象は良いモノじゃなかった。
いきなり衝突事故になったかと思えば、私は何もしてないのにビビられるし…阿部君の言う通り、ウジウジしててロクに会話できなかった。だけど、

「三橋君は…綺麗、だよ」
「綺麗?」
「う、うん!茶色の髪が、すごく似合ってる」
「! なんかお前ってさ…」
「え?」
「話してると、調子狂う。三橋ん時みたいに」
「みはし、くんの時…みたいに?」

阿部君はため息を吐いた。(ま、また呆れられた…)だけどすぐに俺様っぽく笑って、私に言った

「…応援してるぜ」
「え…?」
「ぜってぇ叶わねぇと思うけど」
「!!」

(な、なっ…!)

「なによ、阿部君には分かんないよ!私の恋が実るかなんて…!!」
「馬鹿じゃねえの」
「!!っ、な、」
「泣きながら言われても説得力ねーっての」
「え…」
「笑え。実らせてーんだろ?三橋と両想いになりてーんだろ?アイツは相当鈍感だからな、一筋縄じゃ行かねえよ」
「あ、阿部君…?」
「なに?」

阿部君のタレ目が、ギロリと私をとらえた。私は肩を上げながらも、必死に口を開く。

「わ、わたし、絶対に実らせる!!阿部君に、もうそんな事言わせないから!」
「……どーせ、無理だろうけど」

可哀想だから、応援くらいはしてやるよ。阿部はそれだけ残して、「ほら、戻るぞ。かなり時間食っちまった…やっべーモモカンにしばかれる」なんて言いながら私の手を引っ張って歩き出した。私はその力強い手を睨むように見ながら、必死に歩いた

(意味分かんない、けど)
(良い人……なわけないよね!!)

 20120401