sketch | ナノ
 あれから私は三橋君と一緒に保健室までたどり着いたわけだけど、肝心の保健室の先生が出張でいなかった。私は三橋君に、あとは自分でやるから教室に戻ってくれと頼んだのだが、三橋君は「授業中に…教室 入る、の…恥ずかしい から」と言い、結局二人でサボる羽目になってしまった。(な、何だか三橋君に申し訳ない…)

 そして放課後、私はいつものように帰りの支度をしていた。中学の時は一年だけソフトボール部に入っていた。それからずっと帰宅部。ソフトボールはそれなりに楽しかったけど、やっぱりどこか違っていた。それらしい青春はなかったし、すぐにやめてしまった。(飽き性、ってわけではないんだけどなあ…)

 私が溜め息を吐きながら教室を出ようとしたら、花井君がこっちに向かって走ってきた。「苗字!」いきなり名前を呼ばれたものだから肩が上がった。ゆっくりと振り向くと、そこには坊主頭。ああ、昨日の花井君だ

「あ、えっと花井君」
「お前ってさ、田島が行ってた苗字名前!?」
「え…田島君?た、たぶんそうだと思うけど」

(っていうかこの学校に苗字名前って私しかいないよね?)
花井君は大きく息を吸ってから、私に思いきり頭を下げた。

「え、ええ!?」
「野球部のマネージャー、やってくれないか!?頼む!!」

まだ教室には数人の生徒が残っていて、花井君の大声のせいで皆がこっちを見ている。(な、何か変な誤解をされそう…!)さすがに困った。花井君は頭を上げようとしないし、それに、ま、マネージャーって、何で私!?しかもすごいいきなり…!

「あの、花井君…?えっと、私、野球とかあんまり詳しくないし…それに、何で私なの?」

野球部のマネージャーなら、私より適してる人がきっとたくさんいる。そう思っていたのだけれど、花井君は頭を上げて、叫ぶようにして言った

「田島から聞いたんだけど…苗字にはマネージャーの才能があるって!」
「ええ!?」

(だからとにかく、今日の練習に付き合ってくれ!)
(む、無茶振りだってば!)

 20120331