sketch | ナノ
 体育の授業が終わり、昼休みになった。私は誰もいない屋上で携帯をいじりながら座り込む。今日はカラッカラの快晴。屋上には誰かしら居そうな天気だが、今回は運が良かったようだ。

携帯を閉じて、私は空を見上げる。…と、その瞬間携帯が鳴った。
聞き慣れた着メロに少しビックリして、慌てて新着メールを確認する。(あ、千代ちゃんからだ…)差出人は千代ちゃんだった。

『さっきはごめんね。私の恋、協力してくれようとしてたんだよね?』

メールを読んだ直後、罪悪感が湧いてきた。(千代ちゃんが謝ることじゃないのに)
私は素早く手を動かして返信のメールを打つ。

『私こそごめん。さっきのことはもう気にしないで。』

自分なりに気を使った。そりゃあもう、千代ちゃんは私と違ってか弱い女の子だから。さっきの私と阿部君のやり取りのせいで傷ついてたらどうしよう…。そんな不安が大きくなって、私は目を固く瞑ってメールを送信する。

「…はあ」

重くため息を吐いた時だった。屋上の古びたドアがガチャリと音を立てて、開く。突然のことに驚いた私は、思わず肩を上げてその人物を見た。(……あ)

「花井君…」
「!お、苗字…屋上にいたのか」
「うん。花井君、一人?」
「おう」

花井君は何とナチュラルに私の隣に座る。私はそれに少し驚き、花井君を見つめた。だけど花井君は私の顔を見ずに、口を開く。その横顔がやけに恰好良く見えた。

「言っといたぜ、阿部に」
「!…ありがとう。ごめんね変な事頼んじゃって」
「別に良いっつの、気にすんな」

私が気まずそうに俯いたのが分かったのか、気を使ってくれた花井君はすごく男前だ。

「…あのさ」
「え?」

 ふと花井君がこちらを見つめて、真剣な顔で話しだす。その頬は微かな桃色に染まっていた。

「苗字って、阿部のことどういう風に思ってんだ?」
「……どういう風に、って…私は別にどうとも思ってないよ」
「本当か?」
「え?う、うん…」
「それならさ、苗字」
「…?」

花井君の思ってる事が分からない。私は余計に頭上に「?」を浮かべて花井君を凝視した。その真剣な瞳が私を捉えて逃がさない。(な、何か、これ…)

(ドラマチック、だなあ)
「好きだ」

私が心の中でドラマチックだとか思ったと同時に、花井君の口から有り得ない言葉が出てきた。

「…え?」

思わず聞き返した。今、花井君は何て言った?

「あの、今なんて…」
「俺、苗字のことが好きだ。友達としてとかじゃなくて、本気で好きなんだ」
「!!」

そのまま固まって、沈黙が流れる。次の瞬間、ふわりと優しくて温かい匂いに包まれたかと思いきや、花井君に抱きしめられていた。

「は、花井君…?」
「苗字が俺に言ってくれた言葉ひとつひとつがスゲー嬉しくて…全部覚えてるんだ、忘れてない。苗字、俺と付き合ってくれ」
「…!」

(つ…付き合う、って…つまり、交際のことだよね?)
花井君が私を?いつから好きだったんだろう、私も花井君のことは好きだけど、だけど、それは恋愛としてなのかな?

 よく分からないまま、私は何もできずにいた。


(私が好きなのは、三橋君だ)
(だから断らなくちゃいけないのに何で)
(何で、何も言えないの)

 20120509
 唐突な告白キター