sketch | ナノ
 今日の体育はなぜか男子と女子が混合で、しかも男女の二人組でペアを作ってバスケのパス練習をしろという指示が出た。

「女子のペアなら名前ちゃんと組めたのにな」

そう言った千代ちゃんのセリフが嬉しくて、私も「そうだね」と返す。さてここからが私の仕事。何としても千代ちゃんと阿部君をペアにしなければ…!キョロキョロと周りを見渡していれば、いきなり阿部君に声を掛けられた

「…え?」
「組もうぜ、苗字」
「いやいや意味分かんない。千代ちゃんと組んでよ」
「何で篠岡が出てくんだよ」
「い、良いでしょ別に!」

 阿部君はいつもこうだ。私の事を嫌い嫌いと言っておいて、こうやって馴れなれしくしてくる。(何なのよ、もう…) 私が阿部君に嫌われてるっていうのは、本人から言われたし、分かってる。私だって阿部君の事が嫌いだし、水谷君にも言ったように、お互いに嫌い合ってる。だけど、三橋君の事を考えている時に、ふと阿部君の顔が頭に浮かんだり…そう、阿部君は私の脳に付きまとってくるんだ。

「…私、花井君と組むから」

近くにいた花井君の腕を掴み、そう阿部君に言う。阿部君の後ろで千代ちゃんはあたふたしていた。(ごめん花井君!)花井君は「え、俺!?」と顔を赤くさせていたが、私は無理な笑顔を作って「花井君、ボール取りに行こう!」と花井君の腕を引っ張った。その瞬間、

「…おい、」

 ガシ。強い力で阿部君に腕を掴まれて、思わず足が止まった。(何なの、意味分かんない)私は阿部君を睨むようにして振り返る。すると、阿部君の焦った表情が私の視界に入ってきた。(…え?)阿部君の後ろで固まっている千代ちゃんと目が合う。千代ちゃんは申し訳なさそうにこっちを見た。……何なの、何なの阿部君。意味わかんないよ、

「……千代ちゃんと組んでよ」
「だからお前、
「行こう花井君」
「‥!」

バシッと阿部君の腕を振りはらって、花井君を引っ張ってまた歩きだす。
 …たぶん苛ついてたんだと思う。よく分からない阿部君への不安定な感情と、グルグルした吐き気みたいな気持ち悪さに、苛々していた。ボールを選んでいる時に、花井君が「大丈夫か?」と心配してくれたけど、何も答えずに笑顔を返した。たぶん、すっごく引きつった笑顔だったんだと思う。花井君は私の腕を掴んで、「阿部と何かあったのか?すげー修羅場だったけど」と問うてきた

「…な、何でもないよ。ちょっと、八つ当たりしちゃっただけ、だから」
「……そ、そっか」

花井君も、笑えてなかった。嫌だな、こういうの。私が振りまいた種なのは知ってるけど、ちゃんとペアを組んでバスケの練習をしている千代ちゃんと阿部君が目に入って、安心したハズなのに、また苛々した。(ホント、今日の私おかしいって、)

「あのさ、花井君」
「え?あ、何?」
「お願いがあるんだけど、」

(阿部君とは、本当に気が合わないんだと思う)
(そうやって自分に言い聞かせれば、また苛々する自分がいた)

 20120409
 阿部が理解不能なヒロイン