yamikumodays | ナノ
「…で、結局マジで泊まんのかよ」
「良いだろー別に」

はあ。重くため息をついた。あれから苗字は俺のベッドの上で漫画を読んでいる。さっきまで制服だったハズなのに気付けばワイシャツと下ジャージになっていたから「漫画家か!」とツッコみたくなった。苗字もそれはそれでイケメンだし何というか大人っぽい。だから俺のベッドの上でゴロゴロ寛がれると何というか…その、気まずいじゃなくて、言葉に表しづらい感覚に襲われた

「あのさあ、苗字」
「あ」
「…あ?」
「ずーっと思ってたんだけどさ、何で今になって苗字呼び?」
「え?」
「まあ俺のお前の事狩屋って呼んでるから変わんないけどさ」

そう言って苗字は漫画に視線を戻す。……え?今何が起きたのか何を言われたのかよく分からなくなって、必死に頭を整理させた

「…苗字、」
「だから、」
「え」
「名前で良いっつってんだよ、バーカ」
「!?」

バカと言われたよりも先に、頬が熱くなった。何だこれ、何だこれ!!別に名前呼びで良いと言われただけなのに何で俺こんなに反応してんだわけわかんねえ!

「ちょ、おま、え」
「なに?」
「!!」

いつも以上にクールな表情で俺を見た苗字……名前に俺は思わず目を逸らして言う

「い、いきなり何言ってんだ、よ」
「は?お前って何もかも初心者なんだな。名前呼びとか普通じゃん。別に男女でもねえし普通だろ」
「そっそりゃそうだけど!!」
「なら文句ないだろ。お前ためしに呼んでみろよ」
「はあ!?」
「練習練習。ホラ、俺の名前は?」
「え…!?あ…えっと…」
「っはあー!マジで乙女なのお前?男同士だろ普通にサラッと言えねえのかよ」

さっきよりも呆れた顔でそう言われた。苗字はベッドに頬杖をついて、床に座る俺を見下ろす。

「……名前」
「ハイよくできましたーこれからもそれで呼ぶように。分かったか?マサキ」
「っはあ!?」

いきなりの事で頭がパーンしそうになった。(こいつ、いま、俺の事名前で呼んだ…!)

「おま、お前何なんだよマジで…色んな意味でキモいぞお前」
「うっうるせえ!お前はいきなりすぎるんだよ!」
「いきなりって…ちゃんと前置きしただろ、お前だって俺の事名前で呼んだしさあ」
「そりゃそうだけど!」
「またそれか」
「!」

名前が静かに俺を見つめる。その瞬間、シンと静まったその部屋の空気が何だか危ない感じになってきた様な気がして、俺は思わず床に手を付けた。名前はいつも以上に座った眼で俺を見下ろしてくる。(な、何なんだよ…)
 名前のアイスグリーンの眼が俺の思考回路まで弄ってきたような感覚に襲われた。

「あ、名前…」
「なに?」
「風呂、そうだ風呂入ってこいよ多分沸いてるから」
「ふーん一緒に入りたいの?」
「はああ!?」
「ハハッ冗談だよ。さすがに一人で入れるよ、もう中学生だし」
「な、なんだ冗談かよ…」
「……あのさあマサキ」
「え?」

ぐい。気付けば俺の目の前に立っていた名前がいきなり俺の腕を掴み、思いきり引き寄せた。俺は名前の力に勝てず、そのまま足を無理に立たせる。その瞬間、目の前にあった名前の顔が急にグイと近づいてきて、唇に冷たいものが当たった

「え、」

 突然の事で何が起きたのか理解できないまま、やっと発せた声はそんな間抜けな声だった。俺は目をパチクリとさせる。目の前にあるのは、静かに閉じられた名前の眼と、そこから伸びる長くて細いまつ毛。こいつ意外とまつ毛長いんだな…俺は恍惚と名前の表情を見つめていた。するとなぜか口内に熱いものが入ってきて、そのままぐちゃっと頬の裏側を舐め上げられた

「っひ、!」
「あ……」

次に聞こえたのは名前の呆気とした声。「やっべ……わり、忘れて」今日の名前はよく焦った顔をする。もう何回目だろうか、今日の名前は何だかおかしい、変だ、変だよコイツ。だっていま、いまコイツ俺に、

「き……キ、ス」

キス、しやがった


何もかもがクレイジイ
(そう、今日の名前はすべてがおかしい)


 20120201