yamikumodays | ナノ
 雷門を出て、通学路を歩く。
俺は友達なんて出来たことないし、友達と一緒に下校するなんてまず有り得なかった。隣を歩く苗字をチラリと見て、思わず緊張。

(俺に普通に友達がいれば、二人っきりで下校なんて珍しくなかったのかな)と心の中でぼやいてみれば、少し切ないものだった

「…あ、」
「ん?」
「ここ、曲がるんだろ?」
「えっ」

俺の言葉に、なぜか苗字は驚いた表情。この前天馬君たちと一緒に帰った時、たしか苗字はここで曲がったから聞いてみたんだけど、

「ま、間違ってた…か?」
「いや合ってる。ここ曲がったらすぐ俺の家だし」
「…ま、がんないのか?」
「家行かせてくんねーの?」
「えっ!」

こいつ本気だったのか!?

「それ冗談じゃ、」
「本気だよ。だって明日休みだからさ」
「そ、そりゃ休みだけど、さ」
「つーかお前、一人暮らし?」
「え…そうだけど、なんで」
「なんかそんな気がした」

苗字はそう言って薄く笑った。あ、あれ?ドキリと高鳴る自分の心臓に疑問。なに高鳴ってんだよ相手は男だぞ しかも苗字!わっけわかんねえ!俺は心の中で必死に乱闘しながらも、初めてみた苗字の優しい笑顔に唖然

「…なんだよ人の顔じろじろ見て」
「えっあいやべつになにも!!」
「ふーんところでさ、どっちなわけ?」
「え?」
「家、行かせてくれんの?くれないの?どっちだよ」
「え、」

直球にそう聞かれると焦る。
ま、まあ友達を家に連れてくくらい良いよな!べ、別に家帰ったって親いねえし一人だし!

「…い、良いよ。どうせ家誰もいないし」
「一人暮らしだもんな」
「ああ」
「じゃあ行こうぜ。ここ寒い」
「え?ああ、行くか」

そう言って、俺たちはまた歩き出した


 がチャリと家の鍵を開け、静かにドアをあける。すると苗字が「あ、狩屋の匂いだ」なんて言うものだから何だか恥ずかしくなった

「おま、お前いきなり変なこと言うなよな!」
「え、駄目だった?」

普通じゃん、今の。 苗字は疑問な顔をしてそう言った。俺から言わせりゃ普通じゃないんだよ!初心者なんだよ俺は!だがしかし苗字にそう訴えるのも気が引けたから言わないでおいた

「ふーん…部屋キレイじゃん」
「キレイ好きだから」
「え、だれが?」
「俺が」
「は?めちゃくちゃ似合わねえ」
「なんだと!」

追い返すぞ!と言ってやれば、苗字は素直に謝った。しかし追い返すぞと言った瞬間の苗字の表情を俺は見逃さなかった。
 なんていうか、本気で焦ったような眼の泳ぎ方と、一瞬の唇の震え。こう見えて俺は洞察力が良い。苗字は隠したつもりでも、その表情を俺が見逃すわけない

だけどいきなり「いま何でそんな反応したの?」と聞くわけにもいかないから、今の反応は自分の胸にしまっておこう。うん、そうしよう

「…で、何すんの?」
「お前の部屋は?」
「こっち」

俺は廊下を進み左にある扉をあける。この扉を開けずに真っ直ぐ進めばリビングにたどり着くわけだ

俺たちは部屋に入り、ガチャンと扉を閉める。すると密室に苗字と二人っきりという感覚が急に俺を襲ってきて、思わずガチャリと扉をあける

「なにあけてんの?」
「え?あ、いや、べつに」
「つーかお前、青好きなんだな」
「えっ?」
「家具とかカーテンとか小物とか、青いのばっかりじゃん」
「ああ…まあ、うん、好きだ」
「なんか微妙な返事だな」
「!」

ま、また笑った…
優しい笑顔を見せる苗字に対して俺は驚き焦る。こいつ、なんで今日に限ってこんなに笑うんだよ訳わかんねえ!

「そうだ」
「?」
「なあ今日泊めてよお願い」
「はっはあ!?」

そういえばさっきもそんな事言ってたな、マジなのかこれも

「ま、まじで言ってんの?」
「まじ!なあ頼むよ、」
「……まあ、別に良いけど」
「おーありがとな狩屋」

そう言ってまた笑う苗字に、本気で調子が狂ってしまう俺がいた


何もかもが理解不能
(これが友達というものなのだろうか)


 20120201