yamikumodays | ナノ
「狩屋ってさ、最近名前と仲良いよね!」
「はあ?」

放課後の練習中、いきなり天馬君がそんな事を言ってきた。まさか、そんなまさか。俺が苗字と仲良い?いやありえない。ありえたくない!っていうかお前ら本当にもう友達なんだな早ェよ

「やっぱり隣の席だと馴染みやすいの?」
「知るかっての…ちょっと宿題見せたり話し相手になってるだけだよ」
「それって結構仲良くない?」
「そんなわけないだろー、だって俺苗字に嫌われてるしさ」
「え、そうなの?」
「ああ」

何かと悪態つかれるし、俺といる時は一層ダルそうな顔しやがる苗字を思い出すと苛々してきた。天馬君は首を傾げて「そんな事ないと思うけどなあ…」とまたボールを蹴り出す。

「そういえば名前って、帰宅部だよね」
「ん?ああそうだな」
「サッカーとか、興味ないのかな」
「ないって本人は言ってたけど」
「へえ詳しいんだ?名前の事!」
「はあ!?べ、別にそういうわけじゃ…!」

天馬君は輝いたような目で俺を見てくる。(な、何期待してんだよコイツ…)俺はそっぽを向いて「良いからほら、新しい必殺技の練習でもしてなって」とあしらう。

「ねえ狩屋、」
「な、何だよ…」
「最近の狩屋さ、何か楽しそうだよな!」
「は?」
「名前が来てから、狩屋の隣が名前になってからさ、すっごく楽しそうだよ!」
「!…そ、そんなわけ、」

ないだろ。と言いたかった。それなのに口が上手く動かない。あれ、俺ってついに馬鹿になった?言いたい事も言えないような馬鹿になったのだろうか。何だか苛々してきた。楽しいわけねえだろ、あんなに悪態つけられて。でもそれなのに、楽しそうって言われる自分がいる。

(俺…そんなに楽しそうか?)
天馬君は嘘をつくような性格じゃない。だから俺が楽しそうに見えたのも事実なのだろう。天馬君がどんな判断のしかたをしたとしても…まあ、俺は楽しそうにしていたのだろうな。ああもう訳分かんねえ。

「楽しい…か」

もしかしたら、そうなのかも知れない。なんて。


 練習が終わり、皆サッカー塔から出て行った。一年は基本雑用とか任されたりするから戸締りやら何やらをやらないといけない。天馬君と信助君と剣城君と空野と影山君と俺で戸締りを終えた後、剣城君と影山君は一人で帰り、天馬君と信助君と空野は三人で帰るらしい。俺もいつも通り一人なんだろうな、とか別に寂しいわけじゃねえけど。

「あ、名前!!」
そんな天馬君の声を聞いて、俺はハッと天馬君達の方を見た。するとそこには本当に苗字がいて、しかも苗字は当たり前のような顔して「練習終わった?なら帰ろうよ」なんて天馬達に言っている。うわ、何かマジでムカつく…

「なあ狩屋、」
「!」

俺も一人で帰ろうと決め歩き出そうとしたその時、後ろから急に苗字に呼び止められてぎこちなく振り向いた。すると苗字は爽やかな笑顔で(コイツ何気にイケメンだな)俺に「一緒に帰ろうぜ、一人危ないから」と言い放った

「はあ…!?」
「そうだな、狩屋も一緒に帰ろうよ!」
「て、天馬君まで何言って…」
「そーそー!一人より大勢の方が楽しいよっ、ね!」
「うわっ!」

信助君に手を引っ張られ、俺は強制的にアイツらと一緒に下校をする事になってしまった。天馬君と信助君がワイワイ会話をしている中、苗字が俺に小さな声で「この前天馬君達と帰ったって話した時、寂しそうにしてたから誘ってあげただけ。勘違いすんなよ」と言われたのが無性にムカついたが、少しだけ楽しかったなんて言ってやらない


少しずつ縮まる距離
(意外と優しい所もあるのかも、とか)


 20120129
狩屋がちょっと性格変わってるし