yamikumodays | ナノ
「宿題忘れた見せて」
「は?」

朝、いきなり苗字が右手を差し出して宿題のノートを写させろと要求してきた。そんなの他の奴に頼めば良いのに何で俺なんだ。俺は呆れたように苗字を見て、問いかける

「…忘れたのかよ」
「忘れてなきゃ要求しないから」
「天馬君に見せてもらえば?」

ちょっと意地悪く言ってみた。だいたいコイツが天馬君と知り合いなわけないだろうと思ったからだ。予想は「は?天馬って誰それ」という言葉だったのだが、返ってきたのは予想外の言葉、

「あ、その手があったか」
「は?」
「え、何?」
「いや天馬君と知り合いなのかよ」
「そうだけど」
「いつ知り合ったんだよ?」
「…昨日の放課後、信助と天馬と空野と四人で帰った」
「はあああ!?」
「うわっ、ちょ、何だよ…」

うるせえな、と苗字は耳をふさいで聞いていた。何だよお前らいつの間に四人で帰ったんだよ俺なんて一人で帰ったぞ!?

「何、お前も一緒に帰りたかったわけ?」
「はっはあ!?別にそういうわけじゃ…!」
「じゃあ何だよ」

またかったるそうな目でそう問うてくる苗字に、ひどく苛立ちを感じた。俺はコイツが嫌いだ。その何と言うか、感情がないというか全てを怠く見ているというその表情が苦手だった。性格の悪い俺に比べればまだ良い方なんだろうけど

「…別に。良いだろ天馬君に見せてもらえば」
「でもアイツの字汚そうだなー。やっぱ見せてよ」
「はあ?お前性格悪いな…」
「そうか?よく言われるけど」

言われんのかよ!そんなツッコミをする気にもなれず、俺はしぶしぶノートを渡した。苗字は珍しく笑いながら「おー助かるよ」と言うが、肝心の言い方は棒読みときた。なんだホントに腹立つなコイツ

「……なあ、」
「何だよ」
「これお前が書いたの?」
「いや俺のノートだからそうに決まってんだろ、何だよ急に」
「え…ああ、いや、まあ。」

ノートのあるページを一心に見つめる苗字に俺は違和感を感じた。…まじで何だコイツ。
 すると苗字は優し気な表情で俺に言った

「字、上手いなお前」
「は?」
「だからお前の字綺麗だな」
「……え」
「何だよ、褒め言葉はお気に召しませんでしたか狩屋君」
「ああいや、別に」
「…今ぜってー失礼な事考えてるだろ」
「!」

まあ図星と言えば図星なんだが。まさか苗字に褒められるとは思わなかったからちょっと、というかかなり意外。アイツ褒め言葉とか知ってんだ。
 俺は何だか急に照れ臭くなってきて、「良いから早くノートうつせよ!先生来るぞ」「あっやべ」意外とアホな所もあるんだと知った


あれから二時間目の終わりになって、苗字が無表情のまま俺にノートを返してきた。「これありがとな」と言った苗字に対して俺は「お前って褒め言葉に加えて感謝の言葉も知ってるんだな意外だよ」と皮肉を言ってやれば、見事に殴られた

まあ何はともあれ、ノートが無事に帰ってきて何よりだ。俺はホッと安心の溜め息をついてからノートの安否確認をする。…あれ?

「何だこれ」


ノートの隅に書かれた落書き
(何?あり、う…?ってアイツ字汚いな!)
(ありがとうって書いたんだよバーカ)


 20120129