yamikumodays | ナノ
 その日は誰ともつるむ気分になれなくて、部活が無いのを良いことにホームルームが終わると同時に教室を飛び出して家まで走った。

名前に嫌われた。嫌われた。(嫌うって、なに)
『一番仲良いのはマサキだよ』
俺のせいなのか?俺があんなこと言わせたくせに天馬君と仲良く話していたから?でも天馬君は良い奴だ。俺のことを心配してくれたし、だから手だって握ってくれた。そんな天馬君を拒むなんて俺には出来っこない。じゃあどうすればいいんだ。

 家に着いたと同時に、俺はどうしようもない虚しさに襲われた。こんなことなら天馬君たちと一緒に帰って来るんだった。

「……ッくそ…!」

近くにあったクッションを徐に握り締めてそのまま壁に投げつける。クッションは壁に当たると辺りに埃を撒き散らした。
(なんで……!)

『マサキと一番仲良いの、俺じゃないよね』

違う。俺と一番仲が悪くて仲が良いのは、名前だ。誰よりも名前のそばにいたいって思うし、こんなのおかしいかもしれねえけど、俺は本気で名前のことが好きだし一緒にいたい。

『手まで握っちゃって、ホモみてぇ』


―――違う。


「ッ違う…ぢがう!!」

喉が痛くなるだとかそんなこと気にも留めずに思いきり叫んだ。するとまるで栓が抜けたように涙があふれ出してきて、俺はその場に蹲った。
(違う、違う、違う…!!!)
何で伝わらないんだ。何で上手くいかないんだ。俺はただ名前と笑い合いたいだけなのに、どうしてこうも悪い方向にばかり進むんだよ。
行き場の無い怒りと悲しみと寂しさが俺を苦しめた。逃げようとしても逃げ道が見当たらない。何もかも忘れて楽しいことを考えようとしても、名前のこと以外考えられなかった。気付けば俺はこんなにも名前に溺れてしまっていた。

『嫌い』

「っおれは…俺は、ぁ」

好き。名前が好きだ。死んでしまいそうなほどに、殺してしまいたいくらいに名前のことが好きで、だけど嫌いで。でも、例え嫌われたとしても、あの冷たい目でどんなに酷いことを言われたとしてもきっと俺は名前から離れるなんてできないんだ。

「好き…ッすき、名前…っ」

 相手は俺と同じ男で、しかもあんな無愛想な奴。それなのに律儀で優しくて、それさえも気に食わない。大嫌いだしさっさとまた転校して他の学校に行ってしまえと思っていた。そう、あんな奴、雷門中に転校して来なきゃ良かったんだよ。
俺は思いきり床を殴って、また泣いた。泣いても泣いても止まることのない涙は、まるで名前への想いのようだ。決して途絶えることはない、依存心によく似ている。

 俺は重い。重くて面倒くさくて女々しいし気持ち悪い。
こんな俺を名前はまた抱き締めてくれるだろうか。キスしてくれるだろうか。そんなみっともないことを考えているうちに、俺は夢の中へと沈んでいった。



仲直りしたい
(でもどうせ電話したって出てくれないだろうし、どうしたらいいんだよ)


 20140519