yamikumodays | ナノ
「お前だって、なんか、楽しそうだったじゃん」
「は…?」

それが名前の第一声だった。
俺はその言葉の意味が分からず眉間に皺を寄せる。

「ど、どういう意味だよ?」
「…べつに。そのまんまの意味だけど」
「そのまんま、って……」

(意味、わかんねえよ)

「マサキと一番仲良いの、俺じゃないよね」
「は?」

思わぬ台詞に俺は目を丸くさせた。名前は、ふくれっ面というよりはわりとガチでキレたような表情をしている。(なんで、そんな怒って……)わけがわからなくて俺もだんだん苛々してしまう。名前はさっきから表情ひとつ変えずに、続けた。

「手まで握っちゃって、ホモみてぇ」
「!!」

(それ、は、)
名前だけには言われたくなかった。俺はピシリと固まって、名前を睨みつける。

「じゃあ手握ったら皆ホモなのかよ」
「そういうこと言ってるんじゃない」
「なら何なんだよ」
「マサキお前、鈍感すぎるところあるよ」
「…だったら何?」
「それ嫌い」
「! っ、」

世界が色を無くした。全部が真っ暗になっていって、俺の頭の中で名前の言葉だけが冷たく響く。


『嫌い』


(きら、い……?名前に、嫌われ、た?)
どくんどくんと心臓が嫌な音を立てる。俺の顔に書いてあること、名前には分かるはずなのに。俺が傷ついたってこと、気付いたはずなのに。名前はそんなの知らんぷりして「もういいよ」と吐き捨ててどこかに行ってしまった。


 残された俺はただ唖然として、その場に立ちつくす。そんな俺に気付いたのか天馬君が「狩屋?どうしたの?」と心配そうに聞いてきたが、俺は返事を返す余裕すらなかった。
(嫌われた……名前に…)
ショック死してしまいそうなほどに沈んでいく気持ちを、持ち直すことは無理そうだ。


嫌い
(俺だってあんな名前は、嫌いだ)


 20140103