yamikumodays | ナノ
「セックスとかってさあ、どうなの」
「は!?」

 風呂を終えて、夕飯を食べていたところだった。今日は作り置きのミートソース。パスタを茹でるだけだったからかなりお手軽に済んだ。それぞれのミートソースをお皿に盛り、ほぼ無言の夕食タイム。名前がいきなりそんな事を言い出した

「いや、同姓セックスとかって…どうかなって思って」
「な、何言ってんだよお前!食事中だぞ!!」
「悪い悪い。ちょっと気になっただけ」
「何だよそれ…」
「だって俺達もう中学生だろ?っつか思春期だよ思春期。お前の場合は発情してそうだけど」
「それはお前だろ!この変態!」
「あーうるさいうるさい」

名前は耳を塞いで「うるさい」と繰り返す。ようやく俺が黙ったと思ったら、名前はニヤニヤとした顔で「マサキはどう思ってんの」だなんて

「…は?」
「セックスだよ。同姓の」
「だからお前、今食事中だって」
「んじゃ後でなら良いの?」
「ちがっ、そういうわけじゃ…!」
「なら今で良いじゃん。ねえどう思ってんの」

気付けば真顔で俺の返答を待っている名前に、俺は生唾を飲んだ。(ど…同姓の、セックスって…いきなりそんな事聞かれても、答らんねーよ…)もごもごと口を動かしていれば、名前は深い溜め息をついた

「…何でそんなに真っ赤になんの」
「え…!?」
「顔、真っ赤。タコみたい…っつーかタコより真っ赤」
「はああ!?んなわけねーだろっ!」
「いや、そんなわけあるから。鏡みてみろよ鏡」

 半笑いで名前は俺を見つめる。悔しい悔しい悔しい。何で俺はこんなに純粋なんだ?いや純粋なわけじゃない。だって、さっき名前を連れて入った俺の自室のベッドの下には、面白半分で買い漁ったエロ本やら何やらがどっちゃり隠されているし、ベッドの下に入りきらなくなった分は、誰かが見ても分からないよう布に包んで本棚にしまってある。…純粋な、わけじゃない。(じゃあ何で…)

「マサキ?」
「え、あ、」
「何フリーズしてんだよ」

子供だな、と名前は笑った。その無邪気な笑いさえも、俺をフリーズさせる原因となりそうだった。俺がはじめてみた名前は、いかにも話しかけにくい奴だった。ダルそうな顔に飾られるように配置された顔のパーツは、どれもが半開きで。目なんてもう、何も見ていないんじゃないかと思うくらい重く半開かれていた。

「…あの、さ」
「え?」
「名前は何で、そんなに俺に構ってくれんの」
「……何で、って…そりゃ、お前の反応が楽しいから」
「そ、そうじゃなくて!」
「は?」

 俺は、バンと机を叩いて立ち上がる。名前はミートソースを口に含んだまま唖然と俺を見つめている。「いきなり何?」そう言った名前の顔は、俺がいつか見たあの「本気で焦ったような眼の泳ぎ方と、一瞬の唇の震え」だった。何で今日のコイツは、こうも俺に隙を見せるのだろう。それが訳分かんなくて、苛々した。机を叩いた手が、ジンジンと痛み出す。ぐい、と名前に胸倉を掴まれて引き寄せられる。その二つは、同時に起こった。

「っ……あ、名前、」
「俺、馬鹿な奴って嫌いなんだ」
「…馬鹿…って、俺の事かよ」
「けど、好きなんだ。羨ましいんだ、馬鹿な奴が」
「え…」

ぺちんと頬を叩かれる。俺は目を見開いた。そして、名前の睫毛が涙に濡れる。それは俺が初めて見た、名前の涙。

「ずっと一人で…一緒に馬鹿してくれる奴なんていなかった。いつだって俺は、一人じゃないハズなのに…どっか、逸れてて。皆と違って。ずっと皆と同じになりたくて。皆ともっと馬鹿したくて…。俺はさ、クールで物静かな奴じゃない。そんな大層な奴じゃなくて、もっと……馬鹿で、阿呆で…煩くてウザい奴なんだよ」

名前は泣きじゃくって、そう言った。そうだったんだ、そんなことを思っていたんだ。
まだ名前が雷門中に来て一ヶ月も経ってない。それなのにコイツは、クラスの女子から意外と優しいとかクールとか静かで大人っぽいとかそんなこと言われてそんな噂たてられて、だけど確実に好かれてた。だけどそれは名前にそういうイメージがあるからであって、名前が本当の"素"を出してたらどうだったかなんてわからない。皆に人気で、女子にモテて、友達がたくさんいる名前は…本当の名前じゃなかった。
初めて知った。初めてだった。全部が初めて。男に対してここまで興味を持ったのも。男を好きになったのも。安らげる居場所を持ったのも。名前に出会ってから、俺のすべてが変わったと言っても過言じゃない。名前が俺を変えてくれた。だから、だから今度は、

「変われば良いじゃん」
「!、え…?」

今度は、俺が、

「変われば、変わるよ」
「……マサキ…?」
「俺は変わったよ。名前が転校してきて、俺と仲良くなって、そんで、そんで…」
「?」
「名前が居たから、俺は変わった。名前に変えてもらった。だから今度は俺が、」

名前を変える。

もう君に暗い世界を見てほしくないから
(色のある世界を君に)

 20120621
 更新停止してて申し訳ないです
 やっと狩屋が本気を出します
 そろそろクライマックスだと思います