yamikumodays | ナノ
「なあマサキ、風呂あがったけど」
「…お、おう」
「何、まだ怒ってんの?」
「……」

名前は呆れた顔で俺を見た。俺はあからさまに顔を背ける。コイツおかしいだろ、さっき俺にキスしてきやがったくせにもう普通に接してきてる。……も、もしかして慣れてんのか、な

「気にしてんなら、謝るけど」
「え、」

俺が顔を上げて名前を見ると、名前は少し申し訳なさそうな顔で俺を見ていた。そんな顔に少しだけドキリとする。ヤバい、俺までおかしくなってきた

「まあその、いきなり悪かったな」
「べ、べべ別に気にしてねえし!」
「気にしてなきゃそんな反応しねーだろ普通」

そう言われて言い返せなくなった。俺はベッドに顔を埋めてもう名前の顔を見ないようにする。…と、いきなりベッドが沈んだから驚いて顔を上げれば、名前が俺の隣に腰かけていた

「ちょ、名前っ」
「俺さあ、親いないんだ」
「え?」
「ガキん時、父親も母親も事故で死んだ。だからもうずっと一人暮らし続けてる」

名前は無表情のまま口を開く。だけどその瞳が「悲しい」と語っているのを俺は感じた

「一人暮らしってさ、楽だよな。自由気ままだし、生活リズム狂っても部屋汚しても誰にも文句言われないし」

まるで自分の言葉の自堕落っぷりを嘲笑うかのようにして笑った名前は、そのアイスグリーンの瞳で俺を捉える。俺はまたドキリと心臓を鳴らして、目を見開いた。名前が、泣きそうな顔をしているんだ。目元を歪ませて、唇を噛み締めて俺を見つめる。心臓が破裂しそうだった。

「名前…?」
「やっぱ一人って、嫌いなんだよ」
「!」

それは意外すぎる発言だった。いつも座った目をしている名前は、いかにも「一匹狼」という言葉が似合う男だというのに。考えてみれば、名前は俺の知らない内にたくさんの人間を魅き寄せて、友達にしていたんだ。俺には分からない名前の魅力が、自然と名前を守っていた

「……ハハッ」

―――――似合わねえ。

 そんな名前に敬意を込めて、笑ってやった。今日ばかりは俺の勝ちな気がする。「お前は、一人じゃねーよ」それは名前と同じように両親を失った俺が、初めて人間を信じ、愛してしまう瞬間でもあった。

「俺が、いるじゃん」

そう言ってやれば、いつもはゲンコツの一発でも食らわしてきそうな名前が、優しく温かく、けれども、悲しい笑顔で笑い返してきた


その一瞬に全てを
(ぶち込んでも良い程、幸せだった)

 20120308