yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
「っはぁ…、ここって…」
「そ。屋上」
赤也は私の手を離し、自慢気に笑う。なぜここに連れてきたのかと問うと、赤也は「下見てみろよ」とだけ言った。私は不思議に思いながらも言われた通りにフェンスに手をかけ校庭を見下ろす。

「、わぁ…!」
するとそこに見えたものは、色鮮やかな花壇の花と、それを飾るようにして近くに植えられた花の木だった。何色もの色が重なり、屋上からではないと味わえない景色。

「赤也、あれすっごく綺麗!すごい…!」
「今の時間帯が一番綺麗に見えるんだよ」
「そうなの?」
「ほら、さっき園芸部のやつらがあげた水に太陽が反射してるだろ」
「あ…ほんとだ、」
「どうしてもお前に見せたくて」
「!」

赤也は照れくさそうにそう言った。ふわりと優しい風が頬を撫で、髪を靡かせる。初めて赤也と会った時のことを思い出した。

「私、はじめはね、」
「?」
「赤也のこと、大嫌いで…ただの変態で最低な奴って思ってたの。でもね、」
言おうとして、口を紡ぐ。赤也と目が合い、どこか小恥ずかしい気分になる。それと同時に不安が生じた。
「……今はね、」
赤也は優しい。私はそれを知ってる。知ってるからこそ、そんな優しい赤也が本当に私を受け入れてくれるかどうか。少し悩んで、勇気を出した。目の前に立っている赤也は、私の本当の好きな人。これから一生、ずっと一緒に歩いていきたい人。それを伝えなくちゃ、駄目なんだ。

「私が出会ったのが、赤也でよかった」
「!」
「何億人もの人達の中で、赤也に出会えたことが…何よりも嬉しいって感じる。…だから赤也、」
「名前、」
「っ、え?」

赤也が一歩私に近付き、柔らかく静かに笑う。そして私の肩を掴んで引き寄せる。強く私を抱き締めた。
「赤也…?」
「俺も、名前でよかった」
「、」
「最初はスゲー貧相で可愛くなくて、でもからかう度に真っ赤になる反応が楽しくてたくさん困らせた。正直、気に食わなかった。いつもいつも俺の頭ん中にはお前がいて、そんでいつも笑ってて。だけど今は、お前と同じようにお前のことが大好きで、お前に出会えて良かったって、心の底から思える」
「あか、や…」
「ありがとう」

気付けばボロボロと涙が溢れてきた。
 何度も何度もぶつかり合って嫌い合って、その度に私達は新しいことに気付かされてきた。赤也に出会えたこととか、たくさんの人と出会えたこととか。この夏の全てが奇跡みたいで、辛かったけどそれ以上に楽しくて。

「出会ってくれて、ありがとう」
赤也が涙声になってそう言った。私はそんな赤也を必死に抱き締める。すると赤也が私の指に自分の指を絡ませて笑った。

「こんな変態な男でごめんな」
ちょっと冗談みたく言って、私の言葉を待つ。ごめんだなんて、思ってないくせに。そう返してやりたかったけど何だか可笑しく思えて、私も冗談みたく笑って返した。
「私こそ、こんな貧相な女でごめんね」
「思ってねえくせに」
こんなに優しく笑う赤也は初めて見る。しかも思っていたことを先に言われてしまった。
「…赤也こそ、思ってないくせに」
「でもそんな俺が良いんだろ?」
「もちろん」
「俺も、そんな貧相なお前が好きだぜ」
「あんまり嬉しくないんですけど」
「冗談。お前は世界一の女だよ」
「…赤也の馬鹿、変態」
ぽつりぽつりと会話を交わす。赤也は馬鹿みたく笑って、また私を強く抱きしめた。

「お前のこと、ぜってー幸せにしてみせるから」

――私が愛したのが貴方という奇跡が、これ以上にない幸せなんだよ。

 文化祭終了の放送が流れたと同時に、私達はキスをした。今までにない、幸せの味がした気がする。赤也が笑って、私も笑う。こうなりたいと願ってた幸せがここにある。気付けば涙も乾いてて、優しい風が屋上を包んだ。


安物にはご注意を
(これからも君と二人であの家に帰ろう)


 20130104
 20130216 修正
やっと完結しました。
最初は下僕だの何だの言ってましたが無事に完結することができて良かったです。
最初はわざとセクハラばっかりしていた赤也ですが、好きだと気付いてしまったら大切にしてあげるんじゃないでしょうか。赤也はその辺がすごく素直だったら良いな。
 何はともあれ、最後まで読んでいただき心の底から嬉しいです。本当にありがとうございました!