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翌日、目を覚ますと赤也はもう家を出たようだった。流しに置かれた使用済みであろう食器。昨日のオムライスの残りは綺麗に完食されていた。
私も早く家を出ようと制服に着替える。いつも通り、朝食は食べない。ブレザーを着てリボンを整えた時、ふとよぎった記憶に手が止まった。
 お互いに好きだと告白し合い、愛してるとも言葉を交わした。そんな恥ずかしいことを思い出して思わずニヤけた。しかしすぐにハッとし、止めていた手を動かす。赤也のことを考えるだけで幸せになっている自分がいる。今日は赤也と一緒に学園祭を回る約束をしていたことを思い出し、急いで家を出た。早く学校に行きたい。そんな思いで一杯のまま、私は学園祭二日目を迎えた。



「名前!」
元気よく声を掛けてきたのは、先日好きな先輩の苗字先輩のことで相談に乗ってくれた友達だった。私も笑顔で返事をすると彼女は何やら心配そうな表情になる。
「あの、さ」
「?」
「好きな先輩の苗字先輩とは…どうなった?」
とても控えめな声。彼女は私を気遣ってくれていた。私はそんな彼女の心配を晴らそうと笑顔で答える。

「もう大丈夫だよ。好きな先輩の苗字先輩がね、私に気付かせてくれたの」
「気付かせてくれた、って…?」
「私のほんとの好きな人」
彼女は驚いた顔をした。「それってもしかして切原?」そう問いかけてきた彼女に呆気とする。「なんで?」と聞き返すと「噂で聞いたから」と返された。

「でも、名前…ほんとにそれで良いの?」
「え?」
「あんた、あんなに好きな先輩の苗字先輩のこと好きだったのに…辛くないの?」
彼女の優しさに胸がじんわりと熱くなった。確かに私は好きな先輩の苗字先輩が好きだった。手を伸ばせば届く距離。決して叶わない恋ではなかったのかも、と。今ならそう思う。だけど、今は違う。

「私には赤也がいるから」
自信を持ってそう言えた。彼女はしだいに安心したような顔に変わって、最後はにっこりと笑う。「良かった」とそう言った彼女の言葉に嘘はなかった。
「ありがとうね、色々」
「良いって。名前がすごく頑張ってたから、役に立ちたかったの」
少しは役に立てたかな?と、そう言った彼女に思わず抱きついて「もちろん!」と叫ぶ。すると彼女は嬉しそうにありがとうと言った。

「あ、名前、」
「ん?」
 すると彼女は何かに気付いて廊下を指差す。彼女が指差した方に目を向ければそこには赤也が立っていた。

「赤也!」
彼女から離れた私が赤也に笑顔で駆け寄ると赤也はどこか不機嫌そうだった。
「どうしたの?」
「…あんま俺以外とベタベタすんなよ」
「!…相手女の子なのに、」
赤也のヤキモチ妬き!笑ってそう言ってやればここは廊下なのに思い切りキスされた。周りからヒューヒューと冷やかされたが赤也は気にせずに私の手を引く。

「ほら、行くぞ!」
「…っ、うん!」
幸せな二日目が始まった。



 わたあめとかたこ焼きとかお化け屋敷とか、たくさんの屋台があって赤也は全制覇したいと言った。私もその気になったけど、半分もいかないうちに屋台の多さにギブアップ。赤也はまだまだいけるようだ。
「テニス部の人って、すごいたくさん食べるよね」
「え、何で?」
「ブン太先輩、ケーキたくさん買って全部一人で食べるって言ってたから」
「…丸井先輩ほど食い意地はってないだろ俺は」
「まあ、ね」

ブン太先輩は異常だねと二人で笑って話した。私が楽しそうにブン太先輩とのことを話すと不機嫌になったりした赤也だが、楽しくて仕方なかった。
 文化祭終了まであと三十分を知らせる放送が鳴り響いた。私達は最後に焼きそばを食べてから教室に戻ろうとした。だけど赤也が私の手を引っ張り、行きたい所があると言って走り出す。

「あ、赤也…?」
「わりぃ。ちょっと付き合え」
握られた手に伝わるのは赤也の温かい体温。そのまま前を走る赤也の背中に、ひどくときめいた。


20130104