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 ブン太先輩が帰った後、すぐに携帯に電話が掛かってきた。番号は非通知だったから出るのには躊躇したけど、もしかしたら赤也かもしれないと思い電話に出る。聞こえた声は仁王先輩だった。

「名前か?」
「そうですけど、仁王先輩に番号教えましたっけ?」
「ブンちゃんから聞いたんじゃよ。それより名前、今すぐ駅前の公園に来い」
「駅前の…?な、何でですか?」
「とにかくじゃ。話したい事がある」
「わ、分かりました」
「そんじゃあな」

電話はすぐに切られた。私は上着を着てすぐに家を出る。公園まで時間はそうかからなかった。

「に、仁王先輩!」
「おー名前、こっちじゃこっち」

 公園に着くと、ブランコに乗った仁王先輩が手を振っていた。暗くてよく見えなかったけれど、右頬が微かに赤くなっていた。

「話ってなんですか?」
「そこ、座りんしゃい」

先輩は隣のブランコを指差して笑う。どこか悲しそうな笑顔。私はブランコに腰を下ろし、また先輩を見る。

「おまんは赤也とどんな関係なんじゃ」
「!……べ…別に、関係なんて、ないです」
「…そうか」
「な、何ですか急にそんなこと…」
「いや」

先輩が私から視線を逸らしてどこか遠くを見つめる。私もなんとなく、下を向いた。赤也との関係、なんて。最初はただの同居人で、お互いに嫌い合ってて…勝手に下僕だのなんだの言われたけど、今では…

「で、でも」
「?」
「私は…赤也のことが好きです」
「、………そうか」

先輩が優しく笑う。こんな顔、するんだ。

「すまんかった」
「え…?」
「色々、無理させとったみたいで」
「そ、…そんなこと…」

ない、とは言えない。
だけど、でも先輩といて楽しいと感じた時だってあった。私はそれのお礼を言いたい。

「先輩…」
「終わりにするか」
「、」
「ブンちゃんとの写真も、消したぜよ。もう俺がおまんを脅す材料は無くなった」
「せ、先輩?」
「傷つけてすまんかった」
「……楽しかった、です」
「え?」
「先輩といると…それは確かに無理してた面もありましたけど…でも、楽しくて、幸せな時もありました」
「名前…」
「先輩ごめんなさい」

私はブランコから立ち上がり先輩に頭を下げた。
先輩は何も言わずに私の頭に手を置く。そして「おまんは、優しすぎるのう。それが心配だ」とだけ言って、また笑った。

「赤也は近くのコンビニにいるぜよ」
「…え?」
「さっきたまたま会ったんじゃがな。そしたらあいつ、いきなり殴りかかってきよった。もう話は付けてある。あとはおまんらだけじゃ」

たぶんまだあのコンビニにいるだろうから、と。先輩はそう言って私の背中をドンと押した。そして最後に、先輩は赤くなった右頬を指差して言う。

「あと、これ。赤也に名前の事脅してたって言ったら殴られたぜよ」
「!」
「おまんも大切にされとるのう」
「…赤也が…?」
「そうじゃ」
今まで気付こうとしないままだった。今更気付かされてばかりで、すごく悔しい気持ちになる。私は先輩から目を逸らして、地面を踏みにじる。先輩は最後にこう言った。

「おまんもアイツのこと大切にしてやりんしゃい」
先輩はそれ以上何も言わなかった。沈黙が続いても、ただ黙って笑顔を見せる。優しい笑顔。先輩は今、傷ついてるんだろうか。私が傷つけたんだろうか。
後ろ向きになった気持ちを必死に押し込んで、私は足を進める。そして一度だけ振り返って、涙が溢れてきた瞳を拭い「ありがとう、ございました…!」と残してコンビニへ走る。
どうか、どうか。またあの楽しくて馬鹿馬鹿しい日々に戻れますように。
今はそれだけを願っていた。

 20121228