yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
 バスケ部に入部して早二年の夏、部長からエースの座をもらった。昔からバスケが好きで、朝から晩までバスケばかりやっていた。ほかの部活やスポーツになんて興味すらなくて、だから私がテニス好きなあの男とあんな事になるなんて思ってもいなくて。夏空の下で、私は目の前に聳え立つ"新しい家"を見つめていた。

それはつい一昨日のこと、父の転勤で両親は海外に行く事になった。それまで私は寮生だったため、両親が海外に行くんじゃ寮費を払えないという理由で私は新しい家に住む事になった。その新しい家というのは、父の親友が大家をしているというアパートらしい。大家さんは行き場のない私を快く引き受けてくれて、しかも家賃は免除してくれたのだ。何て太っ腹な大家さんだろうと思いながらも、私は一昨日からこのアパートの一室で暮らしている。
 しかし、この部屋には大きな問題があるのだ。どうやら私と同じような状況に置かれた一人の少年とやらが、すでにこの部屋に住んでいると告げられた。彼も生活費を免除してもらっているそうで、私は大家さんの心の広さを疑ってしまう。そして今、私は彼が住んでいるこの部屋に足を踏み入れたのだった。

「失礼しま…す、ってきゃあああ!!」
「あ、もしかしてアンタが大家さんの言ってた奴か?」
「ちょっ待って、服!服着て下さい!」

まさかの展開だった。ドアを開けて玄関で靴を脱ぎリビングに入った瞬間、そこにいたのは上半身裸でテレビを見ていた男だった。しかも多分、歳は私と同じくらい。(少年って聞いてたからてっきり小学生かと思ってた)
 平然とした顔で話しかけてきたその変態男に、私は荷物を投げつけてやった。

「いって!てめ、いきなり何すんだよ!」
「そっそれはこっちの台詞よ!とにかく服着て!」
「ったく…ハイハイ今着てきますよっと」

唖然としている私をよそに、変態男はリビングを出てほかの部屋へと移動した。それから一分後、すぐに服を着て戻ってきた変態男は私を見て「何だ…可愛い女が同居してくるって言ってたから期待してたんだけどなあ」と呟いた。

「な、何よ。可愛い子って聞いてたくせにいきなり全裸でお迎えしてきた変態男に言われたくないです」
「いやでも結果的には可愛い子じゃなかったから良いだろ、気にすんなよ」
「な…!あんたみたいな天パに言われたくないわよ!」
「…誰が天パだって?」
「っ、!?」

 ドサ。急に視界が反転したと思ったら、私はソファに押し倒されていた。目の前にある変態男の顔は怒りに満ちていて、それなのに口元はニヤリと企んだように笑っている。寒気がした。私は何も言えず、変態男の胸を押して離れようとする。しかしその腕は意とも簡単に掴まれてしまった。

「おい、テメエ今日からここで暮らすんだよな」
「…そ…うです、けど」
「なら覚悟しとけよ。テメエは今日から俺の下僕だ」
「……はい?」
「だァから、俺に逆らうなって言ってんの」
「な、何よそれ!勝手に決めないでよっ――ひ、!」

スルリと服の中に入ってきた冷たい手に、思わず全身が凍る。唯一、反撃できる口さえも動かなくなってしまった。何が起こったのか分からず、ただ暴れて逃げるすべもなくした私に、変態男は言った。

「犯されてーのか?テメエは」
「な、なな、に、っ何して…!!」
「うわ顔真っ赤じゃん。何、こういうの慣れてないのかよ?」

 グイッと近づいてきた変態男の顔を、再度よく見てみる。少し幼さの残る整った顔立ち。天パはどうであれ、きっとこれだけイケメンならば学校でもモテモテなんだろう。だがしかしこの変態男はどうして初対面の私にこんなにセクハラしてくるんだ。私みたいな貧相な女を相手にしても楽しくないだろうに。思考はどんどん可笑しな方向へと進んでいくようだった。
と、そこで初めて変態男が唖然とした顔を見せる。それと同時に変態男の口から出てきた声は、まるで恐ろしい物でも感じ取ったかのように気力が抜けていた。

「…胸、小っさ……」
「!?」
「ありえねえ、どんだけ貧相なんだよ。貧相にも程があるだろこの貧相女」
「なっ、な…!変態に言われたくないわよこの変態男!!」

私は、本当にここでやっていけるのだろうか。


 20120729