yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
 家に帰ると誰もいなかった。もう時間は10時を回っているのに寂しいくらいに静かな部屋には赤也の気配はない。帰りが遅くなるのはどうしてなんだろう、どこか寄る所があるのかな、何であの時赤也は私と目を合わせてくれなかったんだろう、もしかして嫌われてしまったとか、考えるのは赤也のことばかりで心臓がおかしくなりそう。

 それから制服を脱いですぐお風呂に入った。適当なTシャツとズボンに身を包んでリビングに戻るとお腹が鳴った。そういえば、赤也が作ってくれたシチューの残りがあったかな。鍋に入ったシチューを温めている間に宿題を終わらせる。いつもと同じな筈なのに、赤也がいない。
鞄の中にはこの前好きな先輩の苗字先輩に借りたCDが入っていたけれどいつもならそのCDを見るだけで好きな先輩の苗字先輩のことが脳内を満たしてしまうのに、今は赤也だけが脳内に広がって消えることはない。赤也、赤也赤也赤也。

「他の男に触らせんな。ムカつく、うぜえ」

いつの日か赤也が私に言った言葉を思い出した。
目を閉じていくつもの赤也との記憶をよみがえらせてみて、気付けば涙が溢れてくる。赤也はいつだって、強引で独占欲が強いフリして私を守ってくれていた。いつだって私を心配してくれて大事にしてくれてた。それなのに、そんな赤也のこと放って仁王先輩とあんなことして私は最低だ。

 私と赤也は別に恋人なわけでもないのにどうしてここまで来てしまったんだろう。初めて会った時からすぐに仲良くなって色んな話をしてたくさん喧嘩もしてすれ違ってきた。だけどいつも、赤也は私を見捨てないでいてくれたのに。

「赤也、赤也ごめん、」
どんなに言葉を並べても赤也はそこにはいなかった。もしかして、もうここには帰ってこないんじゃないか。どこか他に住む場所を見つけて、私に何も言わずに離れていってしまうんじゃないか。たくさんの不安が重なって、涙が止まらない。
 ここまで赤也に悩まされる理由を、私はまだ知りたくはなかった。


 20121112