yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
 翌日、部活でヘトヘトになりながらも帰宅すると赤也が熱心に本を読んでいた。私は首を傾げてソファに鞄を軽く投げ捨てる。私が帰ってきたのに気づいているのか気づいていないのか分からないがとにかく集中しているようだ。

「赤也?」
「うおっ!?名前…!」

赤也は私を見るなりバッと勢いよく本を後ろに隠す。ゼエハアと息を荒くする赤也が何だか面白かったけど今はそれどころじゃなくて。

「ちょっと何隠したのよ」
赤也の後ろを覗きこもうと身を乗り出せば、そのまま腕を引っ張られて赤也にダイブ。いや、明らかにこの展開はおかしいと思うんですけど!そう思った私だが、赤也は焦っているのが丸出しの声で「黙らねーと襲うぞ馬鹿」だなんて言ってきた。赤也にだけは言われたくない馬鹿という言葉を言われ、思わずムッとする。

「赤也にだけは言われたくないんだけど」
「は!?ほんとの事だろっ!良いから早く自分の部屋行けよ!」
「いや私夕飯作らないと」
「カップ麺で良いから!」
「あんたは良くても私が嫌なの。良いから手離してよ」

 至って冷静に言葉を並べるが赤也はなかなか手を離してくれない。自分の部屋に行けよとか言っときながら赤也が離さないんじゃないか。矛盾している…。

「赤也また熱でもあるんじゃないの?顔赤いけど…」
「は、はあ!?んなわけねえっつの!とにかくさっきの事は忘れろ!良いな!?」
「…目充血してる」
「うっせー!」

今度はパッと手を離してズカズカと去っていく赤也。一体何なんだアレは。私はそんな赤也の後ろ姿を眺めながらため息を吐く。あ、そうだ夕飯作らないと。

「カレーで良いか」
適当にメニューを決めて台所に立つ。ふと窓から外を見てみれば、綺麗な夕日と目が合った。西条先輩との事も解決して、だけどそれを赤也は知らない。まあ良いか。今日の事がきっかけで赤也に対する西条先輩のストーカー的な事もなくなれば良いんだけど。…まあきっと大丈夫だろう。私は薄く笑って、また夕日を見つめる。

「……生きてて、良かった」

ぽつりと零したその言葉は、私と夕日しか知らない。
 しかし考え直してみればさっきの赤也は何だったんだろう。慌てて隠したって事は私に見られては困る本なんだろう。もしかしてエロ本?いやまさか…でもありえるかも。うん、きっとエロ本だ。やっぱり赤也は変態男だな。初対面の私をいきなり襲おうとしたりしょっちゅう抱きついてきたり押し倒したり変なことばっかするくせに嫌いだのうざいだの悪口ばかり言ってくる。そういえば私は未だに赤也の下僕という事になっているのだろうか。考えたら気が重くなった。

「はあ」
またため息をつく。だけど、どこか安心したため息だ。素直じゃないんだか素直すぎるんだかよく分からないし矛盾しまくりの赤也だけど、それでも私は赤也といて楽しくないわけじゃない。むしろ、楽しい…なんて。何馬鹿なこと考えてるんだろ。

(だってあの時、西条先輩に殺されそうになった時。浮かんだのは赤也の事だったし)

 20120903