yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
 朝、下駄箱から靴を出したら紙が一枚入っていた。ぴっちりと角を揃えて綺麗に折られている手紙を拾い、まじまじと見つめる。開いて読んでみると、思わず血の気が引いていった。それはまさに、悲劇そのもの。

「う、嘘でしょ…」
分かりやすく言うと赤也のファンらしき人からの脅迫状だった。内容は「これ以上赤也に近づいたら殺す」というもの。いや怖すぎでしょコレ。そこで私は、だいぶ先日の友達との会話を思い出した。

「そう。いや噂だからマジかは分からないんだけど…ちょっと前に切原に告白してフラれたっていう先輩いたじゃない…えーっと、名前は忘れたけど三年の先輩。その先輩がさ、最近名前と切原の仲が良いっていうのに嫉妬してるらしいよー」

まさかこの手紙は、その先輩が書いたのだろうか。しかしよく私の下駄箱分かりましたね。多少の不安はあったが、何事もなかったかのようにしてポケットに手紙を押し込んだ。

(まあ…差し出し人の望み取りにすればいいんだろうけど、やっぱ不安だなー…)



 廊下を歩いていると、いきなり声を掛けられて振り返ったらパシャリというカメラの音が響いた。

「え?」
「おっす苗字!」
「あ、丸井先輩こんにちは」
「ブン太で良いって。あ、さっきのブレちまったからもう一回撮るぜぃ」
「ちょ、何撮ってるんですか!」

またパシャリと音が響く。満足そうな丸…ブン太先輩?はニコニコと笑ってこちらを見た。昼休みだからこんなに元気なのだろうか。私はポケットから携帯を出して反撃しようと先輩にカメラを向ける。
 すると、携帯と一緒にポケットから出てきた先程の手紙が床にひらりと落ちる。私はそれを見て固まった。

「あっおい、何か落ちたぞ?」
「っやめて下さい!!」
「……え?」

見られてはいけない。思わず叫んでしまった。ビクリと肩を揺らして、拾おうとしていた手を止める先輩。こちらを不思議そうに見つめるその目が、とても心地悪かった。

「…名前?」

突然名前で呼ばれて戸惑いつつも、先輩から視線を逸らして慌てて手紙を拾う。気まずさでそのまま立ち去ろうとしたが、パシリと強く掴まれた腕。振り返ると真っ直ぐにこちらを見つめるブン太先輩と目が合った。

「っ…な、何ですか」
「それ、見せろよ」
「や、っ…嫌です」
「何でだよ。それ手紙だろぃ?さっきの態度から考えると、友達からじゃないんだろ」
「な、何言ってるんですか…友達からに決まってるじゃないですか…は、離して下さい!」
「良いから見せろ!」

バッと荒い手つきで私から手紙を奪ったブン太先輩は、必死に阻止しようとする私の手を払いのけて手紙を目にした。
わなわなと震える口元と、だんだん怒りと覚えてくる目。やばい、冷や汗が湧き出てくるような感覚だ。こちらを見つめたブン太先輩は、怒っていた。

「な、何でもないんです!これ、違くて…えっと、ブン太せんぱ」
「誰からだよ」
「っ……わ、分かりません…」
「赤也のファンか?ちっ…陰湿だな」
「せ、先輩は何も気にしないで下さい!私ほんとに、何もされてないし大丈夫ですから…!」
「それじゃ駄目なんだよぃ」
「、え?」

そう言ったブン太先輩の目は、どこか悔しそうだった。どうして?そう問いたくても、口が開かない。ただ固まってしまった口を必死に緩ませようとした途端、ブン太先輩に腕を掴まれた。

「っ!?」
「お前…傷ついただろ」
「な、何で…」
「そんな顔すんなよぃ……ぜってえ、許さねえから。俺がこの手紙の差出人見つけて、殴ってやるから。だから、大丈夫」
「ぶ…んたせんぱい…」

私は先輩の名前を呼ぶ事しかできなくて。その大丈夫という言葉に、安心したハズなのに。どうしたら良いのか分からなかった。(何で、何で、私ばっかり…)気付けばそんな感情ばかりが心を支配する。先輩はこんなにも私を心配してくれてるのに、そんなの頭に入らなくて。大丈夫なんて言葉も、私の頭から消えていった。

(何もかもが分からなくなって、苦しさだけが増していく)

 20120901