yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
※赤也視点

バタンと勢いよくドアを閉める。思わずゼェハァと息を整えた。名前がいきなり部室に来て俺に用があると言ったから何かと思えば、とんでもない事を聞きにここまでやって来た名前に殺意さえ芽生える。
両手で顔を覆い、真っ赤になる顔を誰にも見られないようにしていると近くにいた柳先輩が声を掛けてきた。

「聞いたぞ赤也、さっきのは苗字名前だったか…まるで、」

その先を聞けば恥ずかしさで爆発してしまいそうだったため、柳先輩をギッと睨めば隣から副部長がサラリと言ってのけた。

「新婚夫婦のような会話だったな」
「ッ――!?」

いつもならたるんどるとか言って俺のこと殴るくせに、こういう時はちょっとニヤけた顔で面白そうに俺を見る。つーかこの人達どんだけ盗み聞きしてんだよ。

「ちょ、マジやめて下さいよ!あんな女ありえないっスから!!」
「とは言いつつ顔が真っ赤だぞ赤也。たるんどる」

(いやそこで「たるんどる」かよ!?)この訳分かんねえ先輩達から逃げるようにして自分のロッカーの前まで行けば、ふいにベンチに座ってる丸井先輩と目が合う。

「…何スか?丸井先輩」
「いや、何でもねえけど」
「言いたい事があるんだったら言ってくださいよ」

思わず苛ついた口調で返してしまった。丸井先輩はちょっと視線を逸らして、口を開く。

「…苗字のこと、好きなのかよい」
「は?だから違うって…」
「なら良いよな」
「…何言ってんのか分かんないんスけど」
「苗字はお前の物じゃないんだろ?俺が貰っても良いって事だよな?」

丸井先輩が鋭い目つきで俺を見た。その目は明らかに俺を睨んでると言っても過言じゃなく、間違ってもいない。やっとこの人が何を言いたいのか理解した俺は、声をワントーン低くして先輩に言い放つ。

「もう俺がマーキングしてるんで、無理っスよ」
「好きでもない奴にマーキングすんの?そんな軽い奴だったっけ、お前って」
「…そういうアンタはどうなんスか。名前のこと好きなんでしょ?」
「好きだぜ」

何故か、ぎゅうっと胸がしまった。アイツ、何でこんなにモテんだよ。しかも厄介な人にばかり好かれる。どんな体質を持っているのか分からないアイツに、また殺意が芽生える。丸井先輩はラケットを持って立ち上がる。ガムをふくらまし、ニヤリと笑った。

「後輩の好きにばっかさせてたまるかよ」
「!」

その声には、恐怖さえ感じた。この人はマジで言ってる。そう分かった途端、自分の中にも何か疼くものがあり、思わず抑えきれない殺意を込めて笑う。

「アンタには渡さねえ」

気付けば俺は、これほどまでにアイツを好きになっていた。

 20120829