yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
 部活を終えて帰宅すると、赤也の靴が乱暴に散らばっていた。私は首を捻り、赤也の靴を整えてからリビングへ向かう。この生活にもだんだんと慣れてきた頃だった。いつものようにリビングへの扉を開ける。すると飛び込んできたのはとんでもない光景。私の手から力が抜けて、持っていた鞄がドサリと音を立てて床に落ちる。

「…あ、赤也…?」
呼んでも返事はなかった。そこに居たのは、傷だらけで倒れている赤也。そしてその周りには靴と同様、乱暴に散らばったラケットやらボールやら。赤也が背負っているテニスバッグのチャックは全開。そこからタオルやらが飛び出しているから、多分ラケットやボールもテニスバッグから飛び出したんだろう。
私は慌てて赤也の元へ駆け寄る。間近で見ると痛々しいほどの傷。

「赤也どうしたの、大丈夫!?」
すると薄く開いた瞼。そこに見えたのは、真っ赤に充血した目だった。
「……っ、名前…?」
「な、何でこんな傷だらけなの?何して、」
ぐい。全部言いきる前に腕を引っ張られて、上半身を起こした赤也に唇を奪われた。

「!?っ、ん、あ、赤…也!」
しばらくすると離れた唇。赤也の真っ赤な目が私を捉えて、鋭く刺さるような声が発せられた。

「何でだよ」
「…え?」
「何で、俺が知らない間に幸村部長とヤッてんだよお前」
「、待っ…な、なんで赤也、それ知って…」
「本人から聞いたんだよ…幸村部長から」
「精、ちゃん…から?」
「何だよ精ちゃんって、何で、何で俺の知らない所でヌケヌケと他の男に襲われてんだよお前…!なんでいっつも、俺が知らないところで…!!」
「待っ、赤也、落ち着い、っン…!」

強引に塞がれた唇に、赤也の舌が入り込んでくる。(なん、で)何で赤也は、こんなに怒ってるの。理由が分からなかった。

(放っておけば、良い、のに)
赤也は私のことなんて嫌いに等しいと思っているはずだ。なのに何でいつもいつも、こうやって私の事を心配してるのか分からないけど突っかかってくるんだろう。だけど今はそれよりも、この傷の理由を知りたかった。

ぐちゃぐちゃに掻き回される口内が熱くて、私は生理的な涙を流しながら赤也の胸を強く押す。赤也が私を見て、赤目を歪めた。

「なん、で……。っ、その傷…何よ」
「部長に喧嘩売った」
「っ喧嘩!?な、何馬鹿なことして…!」
「ちげえよ、テニスだよ」
「て、テニス…?」
「くっそボロ負けしたけどな」
「な…何でそんなこと、」
「分かんないのかよ!?」
「っ、分かるわけないでしょ!!」

つい、感情的になった。
俯いて叫ぶと、赤也の荒かった呼吸がピタリと止む。

「……き、だからだよ…」
「え?」

私から目を逸らして、赤也は小さく呟く。しかしそれは私の耳まで届かなくて、聞き返したと同時に強く抱きしめられた。

「っあ、赤也…!?」
「マジで…心配、した」
「…え?」

ポツリと呟く二度目の声は、しっかりと私の耳に届く。いつもの赤也とは思えない赤也を見るのは、二度目だったと思う。優しい赤也と、意地悪な赤也。どっちが本当なのか分からなくなりそうで、私は赤也の背中に腕を回す。

「…ごめ、ん…ごめ…なさい、赤也…ごめん」
「他の男に触らせんな。ムカつく、うぜえ」

吐息交じりに、赤也は切なそうに言葉を吐き捨てた。そんな赤也を見て、私も少し切なくなる。(なんで赤也は、こんなに、優しいんだろ)
文化祭まであと二週間。私の非日常的な日々は、少しずつ過ぎていく。

 20120817