yasumonoNIHAgotyuiwo | ナノ
 全速力で走る足は止まることを知らなかった。早く、早く帰らないと、名前が危ない。先ほど噂で聞いた話通り、水野が名前の身体を目当てにしているとしたら…そして、名前がそれに気付いてなかったとしたら一大事だ。俺はとにかく走った。

アパートの階段を駆け上がる。鉄の階段がカタンカタンと足音を響かせた。しかしそんな音さえ、俺の耳には入らない。必死になり、玄関のドアを上げた。

「!!」
名前のローファーの隣に、少し大きめのローファー。間違いない、水野の物だ。俺は舌打ちをしてリビングへと走る。リビングに入ると、そこには水野に押し倒されている名前の姿があった。

「名前!!」
俺は名前に駆け寄って、水野から引き離す。小刻みに震えている身体を強く抱き締めて、水野を睨んだ。きっと今、俺の目は赤目になっているだろう。

「テメェ、名前に何してんだよ!」
「っ切原…!?お前、何でここに…」
「ここは俺の家だよ!!いいから質問に答えろよ、テメェ誰に許可貰って名前に触ってんだ!潰すぞ!!」

名前から離れて、今度は水野の胸ぐらを掴む。すると水野は冷や汗をかきながらも、醜い笑いを溢しながら叫んだ。

「ハァ?誰の許可だって?お前、苗字の彼氏でもないくせにふざけた事言ってんじゃねーよ」
「テメェ潰す…!」
「何してたかって?襲おうとしたに決まってんだろ!だいたい家に男連れ込むなんて鈍感な女だよな!!自分が何されるか分かってなかったんだぜ!?どんだけ警戒心ないんだよ!!まぁ俺からしてみれば逆に有難いけどなァ!」

水野は乾いた笑いを溢した。胸ぐらを掴む手に力を込める。すると水野は思い付いたように口角を上げた。そして俺に言う。

「あー…なるほどな、お前苗字に惚れてんのか。つーか惚れてねぇとそこまでムキになんねぇよな。お前ら一緒に住んでんのか何だか知んねーけどよ、苗字の気持ちも考えずに勝手に彼氏面かよ!」
「名前の気持ち考えてねぇのはどっちだよ!?」
「ハ?相手の気持ちなんか考える訳ないだろ。っつか、元から身体目当てだったし…苗字って顔も可愛いし身体も俺の好みだからさあ。つーかドストライクだし。貧乳なところも、足の形とか、腕の細さとか、体型とか全部引っ括めてドストライク。だから気になるじゃん、見たくなるだろ…苗字の裸とかさ、泣きじゃくる顔とかさァ!!」
「――っテメェぶっ潰す!!!」

水野の頬を殴った。鈍い音と、歪んだ表情。許さない。絶対にコイツだけは、死んでも許さねぇ。マジで潰す。二度と女とヤれないようにしてやる。俺がもう一発、水野の股間を殴れば水野は顔を思いっきり歪ませて声にならない悲鳴を上げた。

「っい、ぎ…!!」
「二度と名前に触んな。名前を視界に入れんな。あと俺達の前に顔出すんじゃねーぞ、クソ野郎!!
「っ、んなのこっちの台詞だ!」

水野は逆ギレして家を飛び出していった。俺は安堵の息をつき、俯く。(守れな、かった…)床に散らばっているのは、きっと水野の精液。さっき名前を抱き締めた時も、男なら誰でも知ってるあの臭いがした。拳を握り締めて、名前に駆け寄る。強く抱き締めてやれば、まだ名前は震えていた。

「あか、や…あかや、あ、あかや…っ」
「ごめん名前。守れなくて、間に合わなくて…ごめん」

これでもかというくらい強く抱き締める。名前の涙が俺の制服を濡らした。俺は歯を食い縛る。やり場のない怒りと、後悔。どうしてもっと早く来てやれなかった。もって早く来ていれば、名前は傷付かなくて済んだのに。(なん、で)

「名前…水野に、何された」
「っ…家、入ったら…いきなり、お、押し倒されて…抵抗、したけど…っ力、入らなくて…そしたら、み、水野君が、っ…いろんなとこ、触って、きて…こ、怖くて、何もできなくて…そ、したら水野君、ズボンから、だ、出して…舐め、ろって言ってきて、抵抗したら…い、いれ、られて…っふえ、あか、や…赤也が来てくれなかったらわたし、私…!」

名前の身体は大きく震えていた。涙はぼろぼろ零れ落ちてきて、止まらない。俺にしがみついて、必死に俺の名前を呼んで。俺は何もしてなれなかったのに。それなのに名前は、ただ俺に抱き着いて泣いていた。

「名前、怖かっただろ…」
「あか、や…あかや、怖かった、よっ…」
「ごめんな、ほんとに、ごめん」

 抱き締めた身体は、やけに小さく感じた。女の身体。柔らかくて、ちょっと乱暴しただけで壊れそうなほどに弱々しくて。名前は、そんな女の身体をしていた。
水野が叫んだ台詞が、まだ耳に残っている。(ドストライク…か)確かに名前は可愛い。顔も、身体も、全部が良すぎて。俺だって最初は、水野と同じようなことを考えた。
それに、俺だって名前に無理矢理キスしたり襲おうとしたじゃないか。俺だって水野と同じなはずなのに。何で名前は…

「名前、俺さ…水野と同じだぜ」
「、え…」
「名前に無理矢理キスしたり、襲おうとしたり…水野が言ってたように、名前のこと厭らしい目で見てんだぜ?何でそんなに俺のこと、信じてんだよ…」

 名前は俯いたまま、「…わかんない、けど…」と呟く。「赤也にされるのは、嫌…じゃない」そう、確かに、そう言った。

「名前…」
「赤也は、特別だから…っ」
「!」

俺は気付いたら、名前を押し倒していた。目を見開く名前に、言う。

「なら、上書きしてやるよ」

「え…?」
「水野に触られたところ、全部俺が消毒してやる。同じこと、してやるから。水野とヤったのより、気持ちよくしてやるから…」

名前は最後まで、抵抗しなかった。

20120806