bookshelf | ナノ
※学パロ
せっかくセットした髪の毛も、大雨のせいで台無しだ。
朝起きた時に寝ぐせが全くついていなかったのが嬉しくて、いつもより張り切って髪の毛をセットしたのに雨が降っていることを忘れていた。家を出た瞬間に感じた湿気、じめじめした空気。ああもうこれは、失敗したと直感する。
いつもは寝ぐせを隠すために結んで束ねている髪も、今日は結ばずに下ろした。しかしそれは湿気によってだんだんとぐちゃぐちゃになって、学校に到着する頃には「ああもう帰りたい」と涙することになる。
「なまえ?」
「! ロ、ロス…」
下駄箱の前でがっくりと肩を落としていると、後ろから急にロスの声が聞こえて振り向いてみれば驚いたように目を丸くして私を見つめるロスの姿があった。
「髪下ろしてるとこ、はじめて見た」
「で、できればあんまり見て欲しくないんだけど…」
「は?何でだよ」
まじまじと必要以上に私の髪を見るロスの足を踏んで「見すぎ!」と怒ればロスはニヤニヤと面白そうに笑って私の頭に手を置いた。
「髪ボサボサだな」
「!!!」
あまりの恥ずかしさと悔しさでロスの足を思いきり蹴ってやった。
「いってえ!」とロスらしくない声が聞こえたけどそんなのは無視してズカズカと教室に向かう。しかしそれは叶わず、走って私を追いかけてきたロスに腕を掴まれて前に進めない。
「な、何よ」
あんまり顔(と髪)を見てほしくなくて振り向きはしなかったけれど、なんとなく、ロスがどんな顔をしてるのか分かる。かなり思いきり足を蹴ったから怒っているんだろうな。だから余計に振り向きたくない。
あーあ。だから雨の日は嫌なんだ。苛々して不運ばかりが起きる。
もう何か嫌になって「離してよ!」と強めに言ってみれば、ぐんっと急に腕を引っ張られてロスの胸に飛び込む形になってしまった。
「なっ…!!」
「無視してんじゃねえよ、この野郎」
ロスは怒ってる。怒ってるのに、私は反省するどころか近くなった距離にどきどきしてしまって、ああもう、どうしようもない。自分が本当に嫌になる。気付けばボサボサになった髪のことなんて忘れて、ただ心臓の音をロスに聞かれないよう抵抗した。何回か軽くロスを押し返そうとしたがそれができない。ロスはそんな私を見て嘲笑した。
「なに。もしかして意識してんのか?」
「っち、ちが…!」
「ちがくねえだろ」
「!」
スッと耳元に近づいてきたロスの唇。いきなりのことに驚いて固まればロスは私の耳に優しく吐息を吹きかけた。
びくん。緊張で高まった心臓がまるで壊れてしまったかのように飛び跳ねる。顔はこれでもかというくらい熱くなって、どきどきも止まらなくて。できることなら今すぐこの場から消えてしまいたい!
「も、離してっ!」
赤くなった顔を隠すように俯けば、ロスが笑った。
「こういうの、意外と好きだろ」
耳元で言われた台詞に頭がパンク寸前になる。
「す、好きなんかじゃ…!」
ロスは本当にドSだ。いつも私の不幸を馬鹿にしたように笑うし、私が嫌だやめろと言うことばかりしてくる。優しい時は優しい奴だけど、でもやっぱりこういうことをされると嫌な気分になるのだ。何でってそれは、
「ほら、否定しない」
(ロスの思うままになってる自分がいるから)
ロスは私の顔を覗き込むようにして自分の顔を近づける。それにびっくりして距離を取ろうとしたら、ロスは素早く私の両頬を包むようにして掴み、楽しそうに口角を上げた。
「顔真っ赤にするくらい、ホントは嬉しいんだろ」
「!!!」
(ずるい、ずるい、ずるい!)
私のこととか私の気持ちとか全部、まるで掌で転がすように楽しんでるんだ。
そんなロスのことが大嫌いなはずなのに、大嫌いだなんて言えなくて、いつも私はロスに逆らえない。
「俺、そういう素直じゃないなまえも好きだけど」
「っえ、」
「素直でドМななまえはもっと好きだぜ?」
「!?」
こんな奴のこと
(死んでも、好きになってたまるか!)
21040102