bookshelf | ナノ
※どうあがいてもサイレンは鳴りません。美奈さん無視してますごめんなさい。




「貴女は自分が誰のものか分かっているんですか?」
宮田さんの低い声が耳元で響く。たまに耳に掠れる吐息がすごく色っぽくて体が震えた。私は五分ほど前から、今はもう空き家になっている家の壁に押し付けられ宮田さんに責められている。どうしてかと言うとそれが分からない。宮田さんは私の両手首を掴み壁に押し付け、私の足の間に自分の足を入れて身動きを取らせまいとしているのだ。

「み、宮田さん…どうしていきなりそんな事…」
「分かりませんか?随分と鈍いんですね。それともわざとでしょうか」
目を細めて私を見つめる宮田さんに鳥肌が立つ。手首を掴む力が強くなって思わず顔を歪めた。それでも宮田さんは離してくれない。

「そうですね、ではまず貴女がとった今日一日の行動を振り返ってみましょう」
「えっ…?」
「まず貴女は朝一番に何処へ行きましたか?」
「…き、教会…ですけど」
「牧野さんに会いに行ったんですね」
「は、はい。先日話した時に牧野さんが落としたハンカチを届けに…」
「ふぅん。それで?そのまましばらく教会にいたようですが」

 宮田さんのこの目は苦手だ。何でもお見通しだとでも言っているような自信満々の表情。それに加えて私を責めたてるような鋭い目つき。微かに口角が上がっていて私はそれを恐れるばかりだった。
「ま、牧野さんが…今日は八尾さんが出掛けに出ているから少し話し相手になってほしいと言ったので…少し、話してました」
「"少し"?」
「っ、い、いた、痛いです宮田さん…!」
ぐい。掴まれた両手首を上に持ち上げられて腕の付け根が痛んだ。宮田さんが静かに私を見下ろして話を続ける。

「貴女の"少し"は随分と長いんですね。一時間以上話していたそうじゃないですか」
「なっ、何でそれを宮田さんが…」
「牧野さんから聞きました。貴女が帰った後、たまたま牧野さんに会ったんですよ」
「!」

宮田さんは怒りの籠った笑顔を浮かべて続ける。
「嬉しそうに話していましたよ。貴女が朝一番にハンカチを届けに来てくれて、その上一時間以上も…話相手になって下さったと。あの顔を貴女にも見せてあげたかった」

怖いという言葉以外では表せない表情と口調。冷や汗が溢れてきて手が汗ばんだ。それを見た宮田さんは私を見つめて「何を怖がっているんです?」と問いかけてきた。むしろこの状況を怖がらない人がいるのだろうか。

「こ、怖がって…ない、です」
「…俺に嘘を付いて良いと、俺がいつ貴女にそう教えましたか?」
「っい…!!」
手首に爪を立てられて涙が滲む。痛い。宮田さんが怒っている理由がぼんやりと分かってきた。だけどまだハッキリと分からない。だから余計に怖い。

「"ごめんなさい"は?」
「っ、いた、い、です…宮田さん…!」
「上手に"ごめんなさい"が言えれば爪を立てるのは止めてあげますよ」
「いっ、う…ご、ごめんなさ…」
「聞こえませんね」
「ご、ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい…」

目を瞑って必死に繰り返す。涙が頬を伝った。うっすらと目を開けて宮田さんを見つめれば嬉しそうに笑って「よくできました」と私の涙を舐め上げる。びくりと肩が揺れた。宮田さんはそれを見て薄く笑う。そんな宮田さんと目を合わせないように視線をずらせば宮田さんがまた口を開く。

「さて話を戻しましょうか。一時間以上も牧野さんと何を話していたんです?」
「…さ、最近教会によく来る野良猫の話とか…村の事、とか…あ、あとは、……」
「ん?」
「み、っ………えっと、その、」
「何です?俺に言えない事ですか?」
「ちっ違くて…」

私は口籠りながら目を泳がせる。だけど宮田さんの視線が痛くて仕方がなかったから目を瞑りながら少し大きな声で吹っ切れたようにその続きを口にした。
「み、宮田さんの事を話していました…!」
「!」
ピタリと宮田さんが固まる。唖然と私を見つめるその表情は実に珍しいものだった。私はマズい事を言ってしまったと反省し宮田さんから目を逸らす。今更「今のは違うんです!」と否定しても信じてくれるわけがないから諦めた。すると宮田さんが「俺のことを?」と聞いてくる。それに対しては頷く事しかできなかった。

「…へぇ。俺の何を話していたんですか?」
「み、宮田さんは…いつも恰好良くて、その、す…素敵だと…」
「っふ…それは嬉しいですね。…しかし」
「ッ、ひ!?」

突然宮田さんの顔が私の首元に顔を近づけたかと思えば耳を口に咥えられて体が震えた。宮田さんは私の耳を甘噛みしながら口を動かす。
「牧野さんと二人きりで、というのが許せない」
「っみ、宮田さ…っ歯を立てたまま喋らないで、下さ…っ!」
「ああ…貴女は確か耳が弱かったですね」
「ひぁっ、や、やめ…!」

宮田さんはクスリと笑うと耳に歯が当たるようにしてわざと喋り出す。時折べろりと舐め上げられたり吸われたりして掴まれた手首までもがビクビクと痙攣を起こした。すると耳の穴にまで宮田さんの舌が入りこんできて大きく抵抗してしまう。

「何を感じているんです?…自分の立場が分かっていないようですね」
「み、宮田さ、」
「それで、教会を去った後はどこに行きましたか?」
「っ…帰る途中に、石田さんに会って…」
「また話し込んだんですか」
「い、石田さんとはすぐに別れました…!」

私が必至に誤解を解こうとすれば宮田さんが楽しそうに口角を釣り上げる。宮田さんが私の耳元から離れた事に安心して肩を下げれば今度は私の足の間に入り込んでいる宮田さんの足が布越しに私の股を擦った。

「っみ、宮田さん、やめて下さ…っ、ひ、あっ」
ぐりぐりと膝を擦りつけられて顔に熱が集まる。だけど宮田さんはそれを笑うようにして私に問いかけた。

「牧野さんも石田さんも男だという事は分かっていますか?」
「もっ、もちろん…っんう、わ、分かってます…っ」
「ならもっと自覚を持って下さい。貴女は女です」
「っひあ、あっ、や、やめ…っ!!」
膝を強く押し付けられて頭がグラリとした。飛んでしまいそうな意識は宮田さんの言葉によって取り戻される。

「俺は貴女を愛してるんです」
「っ、!」
「それなのにその気持ちは貴女にあまり伝わっていないようですね」
「そ、そんなこと…っ、」
宮田さんはまた私の耳に口を近づけてそのまま咥えた。
「まあ良いです。体に教えて差し上げますから」

宮田さんが私の耳に舌を伝わしながら低い声で囁く。嫌な予感がした。

「っ!ん、やっ、あ、ひゃあぁっ」
「幸い此処は空き家ですが、いつ誰が通るか分かりませんよ。そんなに声を上げて良いんですか?」
「!…っ、んう、」
宮田さんの言葉に慌てて口をキツく結べば噛みつくようなキスをされた。それこそ全部持っていかれそうな程に深く口付けられ舌を吸われる。宮田さんは私の弱いところを沢山知ってる。耳も、舌も、私が感じるところをわざと中心的に虐めてくる宮田さんは意地悪だ。
 長く口付けられて息ができぬまま足をじたばたと動かせば宮田さんがそれに気付き口を離す。荒くなった息を整えていると宮田さんが言った。

「貴女が好きなのは誰ですか?」
「っ…みや、たさん、です…」
「俺が好きなのも貴女ですよ。だから牧野さんや石田さんは少し邪魔ですね、いつ貴女に手を出されるか不安で仕方がない…」
「っあ、あの二人は…そんな、こと、しませ…っ」
「貴女は"男"がどういうものか知らないからそんな事を言えるんだ」
ふと手首から離れた手が私の頬を優しく撫で上げる。私がぴくりと反応すれば「そんな厭らしい表情、男共には見せないで下さいね」と言われてまた口付けられた。

「っんん、はぁっ、あ」
「なまえ…貴女は、俺だけのものです…っ、誰にも、渡さない」
宮田さんの手が私の服に入り込んできたものだから私は宮田さんと距離を置こうとした。すると宮田さんは私の腕をパシリと掴んで低い声でつぶやく。
「逃げるなよ」
鳥肌が立った。
「み、宮田さん…」
「まあ逃がしませんけど。…それと、」
「!」
宮田さんは私の服にもう一度手を入れて胸の突起に触れた。
「やっ、」
感じた快感から逃げるようにして足を動かせば、もう一方の足に躓きそのまま地面に倒れ込んだ。宮田さんはすかさず私の体に跨り、企んだような顔で私を見下ろす。

「貴女が俺に嫉妬させた分のお仕置きをしないといけませんね」
「っ、!」
「それにしても良い眺めです。こんなの俺以外には見せられないな」
「み、宮田さん…!退いて下さい…っ、」
「抵抗したら乱暴にしますよ。ああでも貴女は乱暴な方が好きそうですね」
「っそ、そんなこと…」
「おや否定するんですか。なら試してみましょう、きっと二度と否定なんかできなくなるハズだ」
宮田さんは妖しく笑って私の頬に触れた。つつ…と首筋までの線をなぞり、軽く爪を立てる。思わず目をぎゅっと瞑れば、宮田さんは「好きです、なまえ」と呟いてから私にまたキスをした。

「存分に、愛してあげますよ」


 20130127
 20130128修正