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※年齢制限は無いですがヤンデレ注意。




「なまえが悪いんだよ」

 どこかの何かで聞いたことのあるような台詞を吐いてやると、なまえはすぐに大人しくなった。
「イルミ兄さんと何してたの」
さっきからこんな質問を何度もしてるのになまえは一向に口を開こうとしない。


 もともとなまえは僕だけのものだった。なまえが笑いかけるのは僕だけだったし兄さん達とは会話すらしようとしてなかった。それなのに、それなのに。気付けばなまえはイルミ兄さんにも笑いかけるようになって僕なんて見ようとしない。
だからこうしてやったんだ。なまえが逃げられないようにしてやった。それでもまだなまえは僕から逃げようとするんだね。

「ねえなまえ答えてよ」

また沈黙。

「兄さんの部屋で何してたの」
さっきよりも倍くらい冷たく問い詰めてやるとなまえはようやく紡いでいた口を開いた。それなのに
「い、言いたくない」
まだそんなことを言う。

 僕は腹が立ってなまえの両手首を本気で掴んだ。ぎりぎりと力を強めればなまえは青ざめながら「痛い」と叫ぶ。
(だって、なまえが悪いんじゃん)
力は弱めなかった。だけど口調だけ優しくして「知ってるんだよ」と告げる。なまえの目が見開かれてその瞳がようやく僕だけをとらえた。

「え…?」
「べつに答えてくれなくてもなまえと兄さんが何してたかなんて知ってる」
「っな、なんで…!!」
「!」
急に荒っぽく僕に問い掛けたなまえに思わず驚いてしまう。
(ああなんだ)
「そういう顔、するんだね」
「何で、知ってるの…!」
「…見たんだよ。すごく仲良さそうに兄さんの部屋で話してたみたいだったから何してるのかなってドアの隙間から覗いたの」
「っ、」
「そしたらさあ」
言いきる前になまえを床に押し倒した。
何を言いたいのか分からないけど口を震えさせて何かを訴えるような目で僕を見るなまえを、冷たく見下ろしてやる。ほら、なまえは僕の冷たい目に弱いんだよね。すぐそうやって唇を噛み締めて黙っちゃうんだ。

「…なまえ、いつから兄さんの恋人なの」
「ち、ちがっ」
「でもキスしてたよね」
「っそれは…!」
「僕ね、」
ぐいっとなまえの顔に自分の顔を近づけて言う。
「なまえが好きだよ」
なまえは泣きそうな顔をした。
「…わ、私は…」
「兄さんが好きなんでしょ」
「!」
「兄さんもなまえが好きだもん」

好きじゃなきゃキスなんてしないもんね。

「どうして黙ってたの?僕が怒るって思った?それとも兄さんが言うなって言ったの?」
僕は言いながらなまえの首に扇子を付き立てる。なまえは目から涙をあふれさせたけど、そんなんじゃ答えになってない。僕が知りたいのはなまえの泣き顔じゃなくて質問の答えだよ?そんなことも分からないくらい馬鹿になっちゃった?
(まあ別に…泣き顔も、嫌いじゃないけど)

「泣いてないで教えてよ」
「っカルト…カル、ト」
「……言葉、通じてるかな?」

思わず扇子を持つ手に少し力を入れると、なまえの細い首に赤い線が生まれた。
 なまえは痛そうに目元を歪めたけどそんなの気にしない。質問に答えてくれないなまえのせいだよ。自業自得だ。

「…まさか、兄さんに取られるとは思ってなかったよ」
「、イ、イルミは…!」
「! …なに?」
なまえは小さく震えた手で僕の腕を掴む。そして、掠れているけどハッキリとした声で言いきった。
「イルミは、悪くない…!!」
「、」

 今まで沸々と心の底で沸騰しかけていたドス黒い何かの蓋みたいなものが壊れる音がした。



「もう、いいよ」



僕は真っ暗になった視界の中でなまえの首を扇子で撫で上げた。
 真っ暗な世界の中に赤い華みたいな液体が見えて、もうなまえの声など聞こえなくなる。ああそうか最初からこうすれば良かったんだ。誰かに取られる前に、誰かに奪われる前に。ちょっと遅くなったけど、これでなまえは僕の物だよね。

「なまえが悪いんだよ」


まどろみに咲く腐敗した華



 20130923