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「目逸らすなよ」
まるで切れ味の良い刃のようだった。かつて殺し屋の家族と暮らしていたというキルアが、はじめて今まで殺しをして生きてきたんだと実感した。捕らえた獲物を逃がそうとしない目も、すべてを切り裂いてしまいそうな爪も。目の前にいるキルアは、私の知らないキルアだった。

「き、キルア、離して」
「嫌だね」
「っ、痛いよキルア」
「あー、その顔すっげぇゾクゾクする」

いつからこの子はこんなに変態になったの。どっかのピエロみたいな言い方がすごく似合わないようでマッチしていた。キルアって実は思ってたよりもスケベ。変態。
 ギリギリと爪を立てられた肩が痛い。なぜこうなってしまったのかと言いますと、キルアと話をしていたらたまたまクラピカから電話がきて、そのままつい何分も話し込んでしまったから。構ってくれないのが嫌だったのか、電話を切った途端キルアに腕と肩を捕まれて睨まれる体制になってしまったのだ。
とにかくこのままじゃ迂闊に動けないし、まず殺されそう。その睨みだけで人を殺せそうな目をやめてほしい。が、それを言ったところでキルアの機嫌は治まりそうにないので言わないでおく。

「ねえキルア、そろそろ離してくれない?ずっと電話しちゃってたことは謝るから、」
「そうじゃなくて」
「え?」
キルアが悔しそうな顔で私の肩を握り締めた。痛い痛い。力の加減を忘れてるってくらい痛い。私はそんなに悪いことをしてしまったんだろうか。

「…クラピカだから許せないんだよ」
「ど、どういうこと?」
「あいつ絶対なまえのこと好きだし」
「クラピカはただの友達だってば」
「なまえはそう思ってても、クラピカは違うし。あーむかつく」
「な、なにそれ」
「お前さぁ、ちょっとは危機感持てよ」
「え…?」

唖然としてたら抱き締められた。さっきとはまるで違う、優しいキルア。
「き、キルア…?」
「好きだ」
「、え」
「俺だって普通に嫉妬するし、今だってクラピカもなまえも殺したいくらい嫉妬してる」
「っキルア、」
「異常なの。俺もお前も」

なんで私まで。そうは思ったけど、異常なキルアのことが好きな私も、負けず劣らず異常なんだと思う。悔しい話ではあるが、それでもやっぱりキルアが好きなんだ。異常なくらいに。
「なまえ、大好きだ」
「うん。私もだよ、キルア」
「もしお前が俺以外の男を好きになったら、殺すから」
 いまが幸せなら、それでいいよ。


20121108