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「ねえねえ爆豪君」
「んだよ」
「好き」


 休み時間だというのに誰とも話さず一人で携帯を弄っている爆豪君の前の席に座り、頬杖をつきながらそう言うと一瞬だけ赤く鋭い瞳と目が合った。そして、次に起こるアクションは大体決まっている。


「う……ッるせえよ!!!」

そう怒鳴りながら荒々しい音を立てて椅子から立ち上がった爆豪君のせいで、A組の教室内にがたん!!と騒音が響き渡った。ぜえはあと肩を上下させながら私を睨み付ける爆豪君に笑顔を向ければ、彼はイラついた口調のわりに真っ赤になった顔で言う。

「テメェいつもいつも人のことナメやがってふざけんじゃねえぞ!あぁ!?」

そう怒鳴り散らす彼の口ぶりは確実に怒っているのに対し、顔はそうは言っていなくて私は思わず笑いを零す。
「だって、爆豪君のこと大好きなんだもん、私」
すると今度は戸惑ったように眉間に皺を寄せて、ばん!!と思いきり机を叩いた。その音の周りのクラスメイトは特別驚く様子もなく、各自それぞれが会話をしたりふざけ合ったりしている。それもそのはず、私と爆豪君のこんなやり取り(というより爆豪君の一方的な怒声)は今に始まったわけではないのだから。

私が爆豪君に毎日のように愛の告白をするようになったのは、もう随分と前だろう。毎日欠かさず好きだの大好きだの言っているせいで冗談に思われているかもしれないが、私はかなり本気です。

「馬鹿にすんのもいい加減にしやがれクソ!!」
「え、馬鹿になんてしてないよ」
「してるだろーが!!」

爆豪君はまた大きな音を立てて私をきつく睨み付ける。それにしても、爆豪君も毎日毎日慣れないものだ。こんなにたくさん言っていれば普通は慣れるはずなのに、彼の反応は最初の頃とほとんど変わらない。顔を真っ赤にして怒鳴って、大きな音を立てて私を睨む。大体これの繰り返しだ。

「大好き」
「うっせえ!つまんねー嘘付いてんじゃねぇよ!!」
「だから嘘じゃないって」

私本気だよ、と真顔で言えば爆豪君は何も反論することなく荒々しい仕草で椅子に座った。(あれ、今日はいつもとちょっと違う…)
もう反論することに疲れたのか諦めたのか、それとも呆れたのか。まあ全部なんだろうけど。

でもやっぱり真っ赤な顔を誤魔化すようにガシガシと髪をかき回した爆豪君がすごくすごく可愛くて、私はそんな彼を見つめながらとびきり優しい笑顔を浮かべる。かっこいいな、かわいいな、彼を見ていると彼の良いところがたくさん見つかるのだが未だにそれを誰かに分かってもらえたことはない。何で爆豪なんだ、あいつのどこが可愛いんだと言われたことがあるけれど私は爆豪君が良いし、むしろ爆豪君以外の人に魅力を感じたりしないから。理由なんて自分でもよく分からないけど、とにかく私は爆豪君のことが大好きで、まさに首ったけ状態なのだ。

ふと視線が交わると、すぐにまたそっぽを向かれてしまう。それでも私は小さく笑って口を開いた。

「あのね爆豪君」
「……」
「私、照れ屋で乱暴で口も悪いけどほんとはすごく優しくて、そんな爆豪君が大好きだよ」
「ッ……!!」

私の言葉にあんぐりと口を開けてわなわな震える爆豪君の顔は、きっと林檎より赤くなっているだろう。私はそんな爆豪君の無防備な手をぎゅっと握った。

「何回言っても足りないの、だからこれからも何回でも言うね」
「〜〜ッくそ!勝手にしろ!!」
「うん!」


そんな私たちのやり取りを見ていた緑谷君がぱちくりと瞬きをしてから「すごい…あのかっちゃんが……」と若干引き気味の声で言っていたがその声は私に届かず、私の笑顔に溶け込むようにして消えていった。
私は爆豪君の手を強く握りしめたまま、彼のつり上がった瞳に目をやる。心の中で何度も彼の名前を呼んでは、その度に好きだなあなんて深く深く実感した。こんなの爆豪君だけだ。爆豪君以外考えられない。

「大好き、ほんとうに好き。爆豪君」
「だぁあ!!もう!!うるせぇ殴るぞ!!!」

痛いのは好きじゃないけど、これからも爆豪君のその顔が見れるなら殴られても良いような気さえした。だけどきっと爆豪君は優しいから殴るなんて口だけなんだろうな。そんなところも大好きだ。むしろもう、全部が大好き。


(いつか少しでも私のことを見てくれたらいいのにな、なんて)


20150220
恋に埋もれた