bookshelf | ナノ
 俺は、なまえの全部が死ぬほど好きだった。可愛くて優しくて甘酸っぱいような感覚を俺に与えてくれる、世界に一人だけの愛しい恋人。なまえの声になら何度名前を呼ばれたって飽きることも嫌になることもないし、なまえの笑顔は見れば見るほど俺も幸せになったような気がした。

そんななまえが、今、どこで何をしてると思う?
俺の真下で小さな寝息を立てながら寝てるんだよ。


そりゃあなまえは純粋で真面目だから、そういう雰囲気になってもなかなかその先に踏み込むことはなかった。俺はもちろんなまえとならセックスだってしたいし、正直キスだけじゃ物足らないって思うこともある。だけどなまえが嫌がるなら、怖がるなら俺は一生我慢するつもりでいた。そう、所詮は"そうするつもり"だったんだよ。命に誓ったわけじゃない。
だから、なまえが体調不良で保健室に言ってるって聞いて心配で来てみたら誰もいない保健室のベッドで寝ているところに遭遇した時に、思わず触りたいっていう劣情が込み上げてくるのも当たり前。その可愛い寝顔を見たら我慢できなくてなまえの上に馬乗りになったのも仕方のないことなんだ。


「……なまえ」


小声でそっと名前を呼んでみても、なまえは反応すらせずに音もなく呼吸する。
じい、とその整った顔を見下ろしたら、何かすげー危ないことをしている気分になった。まあ実際そうなんだけど。

「…なまえー…」

最終確認で声を掛けてみても、やっぱり返事はナシ。俺はこの時、ほぼ理性を失っていたと思う。今まで我慢してきた苦労とか、めちゃくちゃ大切にしてきた優しさとか、何度も欲求と戦いながら勝ち取ってきた「純粋」というものを無駄にしようとしてるんだ。

そっと柔らかい頬をなぞれば、なまえはくすぐったそうに顔を背ける。どうやら寝ていてもそれなりの感覚はあるらしい。俺はなまえの頬に触れたまま、少しずつ華奢な体に体重を掛けていった。ぎし、とパイプベッドが軋む音が響き渡るがきっとなまえには聞こえていないだろう。俺は自分の口角が釣り上がるのを感じた。
このまま、誰にもバレることなく犯してしまいたい。この一瞬だけでも、なまえを自分だけのものにしてしまいたい。
そんな不純な欲望が体の奥の方から溢れてきて、ついになまえの制服のリボンへと手を掛ける。少し力を入れてひっぱれば簡単に緩み、綺麗な首筋がよく見えるようになった。

「っ……」

罪悪感と、優越感。ふたつの感情が同時に俺の胸を締め付ける。しかし勝るのは優越感だ。俺はゆっくりとなまえの首筋に自分の唇をくっ付けた。そしてそのまま味わうように舐め上げていく。
ここで初めて、なまえの瞼がぴくりと震えた。

「ぁ、う……」
まるで魘されているような声がなまえの薄い唇から漏れて消えていく。頬は赤く染まり、少しずつ汗が滲んできた。静かな保健室に小さく響いたなまえの吐息と、か細い声。確実に高まってくる雰囲気に俺はひどく興奮してしまう。

「…なまえ」
「っ……ん…」
「なまえ」

今この状態でなまえが起きたら困るくせに、俺は何度も何度もなまえに呼び掛けて首元に滲む汗を舐め取っていく。ふうっと息を吹きかければ、薄く開いた口からは先程よりも高い声が漏れた。その声に、匂いに、温度に俺の欲望はどんどん膨らんで止まらない。(やべ……これは、マジで…)
ハンパなくエロくてハンパなく可愛い。目の前にある恋人の顔に俺は心底愛しさを感じた。このまま、もう、この純粋な体を汚してしまっても良いだろうか。

そんなことを考えた時だった。


「………じゅ、んた…?」
「!!」

もう一度首筋にキスをしようと視線を下げたその時、まるで混乱しているかのような声が俺の名前を呼んだ。俺は一瞬頭の中が真っ白になるのを実感しながらゆっくりと視線を上げる。

「……あー……えっと…」
「ど、どうしたの…?」

そんなことを聞かれても、今の俺には「今まで大事にしてきた彼女を一時の興奮のせいで犯そうとしてました」としか答えられない。俺は黙ってなまえから離れようと腕に力を入れた。そのせいでぎしりと音を立てたベッドに、俺はまた理性を揺さぶられそうになる。
(あー……最悪だ)
こんな状況になってしまったことも、なまえを大切にしきれなかった自分も、全部最悪だ。

「ごめん」
俺は罪悪感に飲み込まれそうになりながらも謝罪して、ベッドを降りようと足を浮かせる。が、急に腕を引っ張られて俺はまたなまえの上にのしかかる体制になってしまった。

「……え?」

どうしてまたなまえの顔がすぐ近くに来たのか分からずに間抜けな声を漏らせば、なまえは真っ赤になった顔で俺を見つめる。自分の腕に目をやれば、なまえの白い手が俺の制服を離さないと言わんばかりに強く握り締めているのだ。何だこれとでも言いたくなるようなこの状況に俺は完全に期待した。

「なまえ?」
「っ………」

ゆっくりと、撫でるようになまえの頬に手を持って行けばなまえの顔はますます赤くなる。
そしてしばらく俺を見つめていたなまえが、ようやく薄い唇を動かした。

「な、なんで、やめちゃうの……?」

それを聞いて、俺は考えるよりも先になまえのワイシャツのボタンに手を伸ばした。突然の驚いたなまえが抵抗するよりも先に素早くボタンを外し、柔らかそうな肌を味わうように舐め上げる。

「っあ、ぁ…!」
「なあ…それってさ、すごい誘い文句なの自覚してる?」
「や…やめ、じゅんた…っ」
「やめてほしいならやめるけど」
「!!」

口ではやめてほしいって言うくせにちゃっかり俺の背中に腕を回してきたなまえにそう言って、俺は目を細めて勝気に笑う。
(…もっとしてくださいって顔してるくせに)
心の中でそう呟いてからすぐにまたなまえの肌に舌を這わせた。さっきまで寝ていたせいか、それとも快感のせいか。熱くなったなまえの体にひどく興奮する。

「ぁあ、ん、う」
「っは……」
「んん、や、やめないで…」
「!」
「お願い、っ純太……」

はあはあと熱い息を零しながらそう縋ってきたなまえに、とうとう理性がぶっ壊れた。全部、この愛しい彼女を俺がぐちゃぐちゃにしてやる。そんな劣情で一杯になった俺はなまえの唇に噛み付き荒々しいキスをしながら、そっとなまえのスカートの中に手を入れた。途端にびくりと体を揺らしたなまえが今にも泣きそうな顔で俺を見る。
(…また、そうやって)


「……嬉しいくせに」


にやりと口角を上げてそう吐き捨てれば、なまえはこれ以上になく可愛い顔を見せた。真っ赤になって、息も荒くて泣きじゃくって。そんな彼女を見下ろして、俺もまたこれ以上になく意地悪な笑みを浮かべる。

「先に手出したのは俺だけど、その気にさせたのはなまえだよなぁ」
「っ…それは……」
「やめちゃ駄目、なんだろ?」

指先でくすぐるように秘所を撫でれば、なまえは短く声を漏らしながら必死に快感に耐えようとシーツをきつく握り締める。
いつ誰が来るか分からない、見られない根拠なんてどこにもない。そんな危険な状況だけど、だからこそ、燃えるんだよ。



「なまえ」


優しい口調で彼女の名前を呼べば、ぎゅっと閉じられていた瞼がゆっくりと開かれてなまえの視界には俺だけが映る。それがどうしようもなく嬉しくて、幸せで。俺はこう囁いてから、またなまえにキスをした。

「責任取ってくれるよな」


20150211
やめないで