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これと繋がっています。少し卑猥。アラタが最低な男です。




 事のはじまりは二ヶ月ほど前だったと思う。ある日突然、アラタが部屋になまえを連れてきたのだ。その時僕は、アラタとなまえは恋人同士なのだと思い込んでしまった。アラタは僕に部屋を出て行けとは言わずにしばらくなまえと他愛もない話を続けていたが、僕の方がその雰囲気に耐えられなくなって部屋を出た。確かあの日は、ハルキの部屋に泊まらせてもらった記憶がある。
 夜になってもなまえはまだ女子寮に帰っていないらしく、僕はアラタとなまえが部屋で何をしているのか勝手に想像してしまった。男女が二人きりで、こんな夜遅くまで。恋人同士のそれを思わせるには十分すぎる条件が揃っていた。
案の定、翌日になるとなまえは腰を抑えて痛そうにしていたのだ。

 しかしどういうわけか、学校でのアラタとなまえは全く持って恋人同士になど見えなかった。小隊が違うこともあり教室内での会話はほとんど無いし、アラタもなまえもお互いを気にかけるような素振りをしていない。妙だと思った。体を重ねるほどの関係であるというのに、それにしてはあまりにも素っ気ない態度だと。

 それから一週間ほど経ったある日、またなまえがアラタに連れられて部屋に来た。僕はまたハルキの部屋へと邪魔させてもらったが、どうも腑に落ちず、夜中こっそりアラタとなまえがいるであろう部屋を覗きに行くことにしたのだ。
ドアの前まで忍び足で辿り着き、音を立てないよう慎重にドアに耳を当てる。中からは布団に何かが激しく当たるような音と、女子特有の高い声が聞こえてきた。なまえは泣いているようだった。

「っす、き…だい、すき、あらた、」

(…!!)
その時僕は、安心したような、けれど複雑な気持ちになった。やっぱり僕の思い込みだったらしく、なまえはアラタに好意を抱いているらしい。ならばそのなまえと体を重ねているアラタも、なまえに好意を抱いているに違いない。
しかしその考えは間違っていた。二人の関係は、僕が思っている何倍もえげつなく残酷なものだった。

「やだ、よ、私っ…いくらでも、あいてに、なるから…!っんう、うぁ、だか、らっ…ほかの女の子と、ッ」
「するよ」
「っえ、…?」
「俺、なまえとヤり終わったら、ユノのとこ行って抱くぜ」

 一瞬、アラタが発した言葉の意味が理解できなかった。今アラタは、何て言った?
(ユノ……?)アラタはなまえと付き合っているんじゃなかったのか。いや、現に二人がこうして体を重ねているということに変わりはない。だったら、どうして。
気付けばなまえの声はぴたりと止んでいた。

「明日も明後日も、別に毎日じゃなくても抱きたくなったら誰かとヤる」
「アラ、タ…」
「なまえ、俺が他の奴を抱く度に、そうやって泣くのかよ」

その時僕は、初めてアラタを心の底から憎んだ。
つまりアラタにとってなまえは、ただの性欲処理の道具でしかないということだろう。なまえはきっと純粋にアラタのことが好きだというのに。アラタが今こうしてなまえと体を重ねているのは単なる気まぐれに過ぎないというのだろうか。

「ッん!あっあぁあ、っ!」

また、なまえの声が部屋の中で響き渡る。その声を聞いているだけで頭痛がした。僕には、理解できない。こんなに最低な男と、どうして体を重ねられるのだろうと。
(なまえは……)
初めて会った時からそうだった。なまえは純粋で優しくて気遣いができて、すぐにジェノックの皆に溶け込んで幸せそうに笑っているような奴で。誰にでも平等に接するから他の仮想国の生徒からも少しではあったが注目を浴びていた。そんななまえが、どうしてアラタを選んだのだろう。
 幸せになんて、なれっこないのに。

「っなまえが嫌なら、やめるけど、」
「!」
「べつに、っ…代わりなら、いるし」
「、や、やだ、やっやだ、やだよ、あ、っあらた、アラタ、すき、ンう、っす、好き…!!」
「それで、いいよ、ッ」

馬鹿だ。最低なアラタもどうしようもないなまえも二人の会話を盗み聞きしている僕も、皆馬鹿なんだ。
僕は両手をこれでもかというくらい強く握り締め、その場から逃げるようにハルキの部屋に戻った。ドアの前から去ろうとした時に最後に聞こえたアラタの声が、やけにハッキリと耳に届いたような気がして、吐き気がする。


「俺、っそういうなまえが好きだから、」



 アラタはなまえを好きなんかじゃない。



 20140531
続きます(多分)
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