bookshelf | ナノ
 今にも雪が降りそうな程に、寒い夜だった。
私はつい帰りが遅くなってしまって急いで寮に戻った。もう皆は寮にいるだろうから、寮までの道のりはひどく寂しい。やっと寮に着き慌てて中に入ると、下駄箱の前で時計を見つめながら立っていたのは寮母さんではなく私の恋人であるムラクだった。

「ムラク?」

少し驚きながらムラクに声を掛けるとムラクは私に気付くや否や「もうこんな時間だぞ」とまるで母親みたいに私を叱る。私が苦笑しつつも「ごめんね」と謝ると、ムラクはため息を吐いた。酸素に混じったムラクの息が白く染まって、すぐに消える。私はそれを見ながら「今日寒いね」とムラクに言った。

「ああ、そうだな」
ムラクは一歩ずつ私に近づいてきて、「だが、」と口を開きながらふわりと私を抱きしめる。
「! む、ムラク?」
「こうしていれば、温かいだろ」

ムラクのそんな言葉に驚かされる。ムラクがこんなことをするなんて。明日は本当に雪が降るかもしれない。
優しく、だけどしっかりと私を抱きしめたまま私の頭に頬を擦り寄せたムラクに思わず顔が熱くなる。(確かに…温かい、けど、)もはや温かいを通り越して、身体の底にあるものが沸騰してしまうかのように熱で包まれた。どきどきと心臓の音が大きくなっていく。

「ムラク…」

真っ赤になった顔を見られないようにムラクの胸に顔を埋め、無意識にムラクの名を呼んだ。するとムラクは小さな声で、
「…なまえは、小さいな」
だなんて。

「女の子ですから」

私が小さく笑いながらそう返すと、ムラクも笑い返してくれた。だけどすぐに私の耳元で「そうだな、でもそういう意味じゃない」といつもより低い声で言った。ムラクの低い声が脳まで響いて、私は余計に顔を赤くする。ムラクはそんな私に気付いているのか気付いていないのか、もっともっと甘い声で続けた。

「可愛いって意味だ」
「、っ!」

ムラクはその言葉と同時に、私の耳に小さなキスを落とす。
ぶわっと溢れるような恥ずかしさと、熱。私はもうムラクの顔が見れず、しがみつくようにしてそのしっかりした身体に抱きついた。ムラクはそんな私の耳にもう一度キスを落として、抱き返してくれる。

「大好きだよ、ムラク」




寒いのどっかいっちゃった
(ムラクがいれば、どんなに寒い夜もあっという間に温まる)


 20140115