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※がっつりではありませんが性描写有り。無理矢理なので注意。





 出会った時からそうだった。いつでも、いつまでも、まるで苦など感じないオモチャみたいにヘラヘラと笑顔を浮かべるような八方美人。本当に、嫌いだ、みょうじなまえという奴は。

 俺は、そんななまえが密かに感じている痛みを知っていた。なまえはハルキのことが好きだったけど、それを無理に諦めようとしているあの痛そうな表情。無理もない。ハルキは恋愛などてんで興味がないのだから。それは今日もハルキにただの仲間としてしか接してもらえないなまえが一番よく分かっているはずだ。僕はそんななまえの痛そうな表情をざまあみろと思いながらも、本当はそんな顔をするなまえが死ぬ程嫌いだった。

「何で、     」

いつも、無意識に口にしそうになるその言葉の続きが分からない。
何で、。その続きが喉に引っ掛かって出てこないのだ。僕はそんな自分すら嫌になって、今日もまた窮屈で不満だらけの一日を過ごす。



「あ、カイト、おはよう」

そんなある日、僕は朝一番になまえに出くわしてしまった。しかしよく見るとなまえが制服のリボンを付け忘れていることに気付き、僕は鼻で笑う。(そういえばこいつは、朝が弱いんだっけ)突然笑った僕に驚いたのかなまえは首を傾げて「どうしたの?」と尋ねてきた。

「そんなだらしない身なり、ハルキが見たら怒るんじゃないの」
「えっ」

僕の言葉になまえは目を丸くする。その顔は少しだけ赤くなっていた。ハルキという三文字を聞いただけでこの反応。本当にうざったい。(そんなに好きならさっさと……)

「リボン、忘れてるよ」
「あ!」

本当だ!と焦って首元に手をやったなまえを見て、僕はとうとう苛々が抑えきれなくなった。心の底から沸々と湧きあがってくるドス黒い感情。何もかも、壊してやりたい。なまえなんか大嫌いだ。見てると苛々するし、話しているともっと苛々する。(こいつが…こいつが僕を、)僕を狂わせるんだ。

「あのさあ」
冷たい声をなまえに浴びせて、そのままなまえの足に自分の足を引っ掛ける。見事にバランスを崩し教室の床に座り込んだなまえに跨り、逃げられないように床に手をつく。なまえがありえないものを見るような目で僕を見た。きっとハルキに同じことをやられたら顔を真っ赤にするだろうに、僕がやったらただ驚いて目を丸くするだけで、その頬は何色にもなりやしない。(ムカつく、ムカつく、気に食わない)

「ハルキのこと諦められないならさっさと告白すれば良いのにさ」
「、え……」
「馬鹿だよね、君って本当に」
「カ、カイト…?何言って、」
「見てて苛々するんだよ。馬鹿みたいにヘラヘラしてるのも、本当は…笑ってるのも、辛いくせに…、全部…目障りだ」
「!……」

なまえの目が、ひどく傷ついた色を見せる。それでもまた無理な笑顔で「ごめん」と謝るなまえに、どうしようもなく腹が立った。(何で……!!)僕はどこにぶつければ良いのか分からない苛立ちを、なまえにぶつける。なまえの首筋に歯を立てて、思いきり噛み付いてやった。

「いッ、!!」
ひどく痛そうななまえの声が僕たち以外誰もいない教室に広がって、泡のように消えていく。口の中に、血の味が広がった。僕は何をしているんだ。こんなの、誰かに見られたらなまえではなく僕の立場がなくなるというのに。

「かっ、いと、カイト…!やめて、!」

なまえの頬に涙の線ができる。だけど僕は、やめられなかった。なまえの真っ白い首筋に血の色が滲み込んで、とても綺麗で。苛々は晴れるどころかどんどん強く深くなっていくのに、今だけはという甘えが僕の中に生まれた。これは、どういうことだ。
(なまえに触っていると幸せ…だと…?)
ありえない。そんなの、そんなのありえるはずがない。僕はなまえのことが大嫌いで、死ぬ程大嫌いで、そうだ、この苛々が何よりの証拠だ。証拠、なのに。(じゃあ、これは…何だ)なまえの涙を見ると、悲しくなってくる。

「ッ…馬鹿、だ…救いようの、ない…馬鹿だよ、なまえは」
「! カイト……」
「なんでっ……どうし、て…!!」

僕はなまえの胸倉を掴んで、揺さぶる。手が、ひどく震えた。
「カイト…どうして、泣いてるの?」
「、ッ」
なまえのか細い声に、僕はハッとして自分の頬をなぞる。冷たい指先が、生ぬるい涙で濡れた。悔しくて堪らない。どうしてこんな奴に、僕の涙を見られなくちゃいけないんだ。

「カイ――っ、ひ、あ!」
僕はいよいよ理性を無くしてなまえの服の中に手を突っ込み、その小ぶりな胸をめちゃくちゃに揉みしだいた。びくん!と大きく揺れるなまえの華奢な体を抑え付けて、無理矢理キスをしてやる。

「っん、ふぅ、う」
なまえの手が必死に僕の肩を押し返そうとした。だけど僕はその手さえも捕えて、床に押し付ける。涙でぐちゃぐちゃになったなまえの顔を見下ろすのは最高だ。苛々はいつの間にかスッキリと無くなっていて、僕はなまえのスカートの中に手を移す。
「!や、やだ!やだ、カイト!」
「っうるさいよ…ちょっと黙ってろ」
「ん、!!?」

またなまえの唇に噛み付いて、ぬるりと舌を入れてやればなまえは目を見開いて固まった。(しめた)僕は自分の欲望のままになまえの口内をかき回す。エグいくらいに混ざり合った唾液が口から漏れて僕たちの顔を汚した。
 よほどキスが苦しかったのだろう。唇を離すと同時にぜえはあと荒い呼吸を繰り返すなまえを冷たく見下ろして、僕はなまえの秘所に指を這わせた。
「っあ、あ!や、やめっ…」
なまえの甲高い悲鳴を聞いたと同時に、僕は、一気に現実へと引き戻される。


 なまえの秘所は、濡れてなんていなかった。


(、なん、で…)
これがハルキだったら、きっと今頃なまえは乱れに乱れまくって愛液を垂れ流していただろう。それなのに、それなのに。なまえは決して僕のものにはならないと、思い知らせれた気分だった。

「ッどうして……!!」

力任せに指を突っ込めば、なまえが痛々しい声で「痛い、痛いよやめてカイト!」と叫ぶ。苛々はとっくに消えて無くなったはずなのに、いつの間にか、苛々が無くなった僕の心には大きな"穴"が開いていた。



「何で、僕じゃない」



咄嗟に口から零れた言葉は、きっとなまえには届いていないのだろう。ただ両腕で顔を隠して「やめて、離して」と泣きじゃくるなまえを目の前に、僕の体はもう動かなくなっていた。乱れ切ったなまえの制服を乱暴に整えて、僕は涙に濡れた自分の頬を制服の袖で力任せに擦る。
 僕がなまえから離れようとした時、なまえが小さな声で「ごめんねカイト」と言った気がした。だけど、きっと気のせいだろう。僕はもうどうしようも無くなって、顔を歪ませる。

 なまえは、本当に、呆れるほどの馬鹿だ。
ヘラヘラと馬鹿みたいに笑うその裏には、実ることのない恋に対する強い痛みを抱えているというのに。あの日、なまえの痛くて苦しそうな顔を初めて見た時から、本当の意味でなまえを知っているのは僕だけだったのだ。なまえはハルキなんかを好きにならずに僕を好きになっていれば、……………




「  」



 僕がなまえに向けた最後の言葉は、果たして聞こえていただろうか。なまえに届いていただろうか。やっと素直になれたのに。やっと言えたのに。こんな残酷な結果になるくらいなら、僕はなまえの痛みに気付きなどするんじゃなかった。


呆れるほど馬鹿なきみもどうしようもないぼくも簡単に言えるたった二文字



 20140109
タイトルサンクス さよならの惑星