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 青島君への気持ちが恋だと分かってから、あまり青島君と会わなくなった。
またあの声が聞きたくて、あの笑顔が見たくて堪らないのになぜかタイミングが悪く一週間も青島君と話さない日々が続く。隣のクラスに行けば会えるのだろうけど、そんな恥ずかしいこと私にはできなかった。
 まさかだけど青島君は、私に愛想を尽かしたんじゃないだろうか。そんなことないとは思うものの、やっぱり不安だった。空白の日々が、また一日、また一日と増えていく。

早く、青島君に会いたいな。



「なまえは青島のことが好きだろうと思ったよ」

 そう言って可笑しそうに笑う友達に、私は唖然とした。いつバレたのだろう。にやにやと楽しそうな笑みを浮かべる友達は、「それにしてもなまえがねえ」と何やら呟いていた。

「で、でも…最近、全然会ってないし、」
「じゃあ会いに行けば良いじゃない」
「それができたら悩んでないよ!」
半泣きでそう訴えると友達は苦笑する。

「あたしなら、好きだって気付いた瞬間死ぬほどアタックするけどね」
「!」

友達が独り言みたいに零したその言葉に、私は目を丸くした。
青島君は、私がアタックしてきたらどう思うんだろう。(やっぱり、吃驚するのかな、それとも)もしかしたらうざいと思われて嫌われてしまうかもしれない。
 私の悩みは、また振り出しへと戻った。
がっくりと肩を落として唸る私に、友達は呆れた顔で「なまえはさ」と切り出す。

「青島のこと、好きなんでしょ?」
「う、うん…!」
「すごい勇気いると思うけど、その気持ちを隠さずにスッパリと伝えるのが何よりの解決法だと思うよ」

 あまりの正論に私はまた目を丸くする。
(この気持ちを、隠さずに…)
初めて青島君に会った時の青島君の親切も、メロンパンをくれた時のあの笑顔も、廊下で声を掛けた時の青島君の楽しそうな顔も、全部、全部好きだ。好きだからもっと青島君のことが知りたいし、一緒にいたい。もっとたくさん、話していたい。その気持ちを、青島君にぶつけてみよう。うん、友達の言う通り、それが一番だ。

「ありがとう!私、青島君に会ってくる…!」

そう言って立ちあがった私に、友達は笑顔で「頑張ってね」と肩を叩いてくれた。
私は教室を出て、青島君がいるであろう隣のクラスへと向かう。もう一度、あの笑顔が見たい。私は、青島君の笑っている顔をその隣で見ていたいんだ。
(青島君を想う度に、"好き"が膨らむ)
どうせ脈無しならば言わずに後悔するよりも言って後悔したい。友達に心からの感謝をし、私は青島君に気持ちを伝える決心をした。



「あ、青島君!」

 青島君のクラスに着くとタイミングよく誰かが教室から出てきたからその隙に開いたドアから顔を覗かせて、私は青島君を呼ぶ。すると近くにいた子が私の声に気付いて、青島君を呼んでくれた。
教室の真ん中辺りで友達と楽しそうにLBXの話をしていた青島君が、こちらに気付く。久しぶりの青島君の顔に、胸が高鳴った。

「みょうじ…!」

青島君は慌てて駆け寄って来てくれて、嬉しくなる。青島君はあの日と何も変わらない笑顔で「久しぶりだな!どうしたんだ?」と首を傾げた。

「あっ、あの…」
上手く言葉が出てこなくて、どもってしまう。そんな私に対し、青島君は急かすことなく私の言葉を待っていてくれた。またひとつ、青島君の優しさを感じてしまう。(どうしよう、どうしよう…)
 ぎゅっと自分の手を握りしめた後に、私はすぐ青島君を見つめて、そのまま青島君の手を掴む。青島君が驚いたような顔をして私を見た。
(言わなきゃ…!!)

「わ、私ね、ずっと、青島君のこと…!」
「!っ ま、待ってくれ、みょうじ!」
「、えっ?」

青島君は何やら焦ったような顔で私の言葉を遮る。そして、無意識のうちに震えていた私の手を見てから、まるで自分を落ち着かせるようにして息を吐いた。

「あ、あのさ…先に、俺に言わせてほしいんだけど…」
「!」

 青島君の真っ赤になった顔を見て、心臓が跳ねる。
どくんどくんと心臓が大きな音を立てて、その振動は体全体に広がっていく。あまりの緊張状態が長く続いたせいで、私の心臓はこれ以上耐えられそうになかった。

 青島君が言葉を発しようと薄く口を開く。
(何を、言われるんだろう)心の中でそう疑問に思いながらも、私は青島君の真っ赤な顔を見て、察してしまっていた。いつもは友達に鈍感やら何やら言われるけど、今の私は、鈍感なんかじゃない。(青島君は……)青島君が、言おうとしてるのは、


「っ、あ」


 私が怖気づいて青島君の手を離したのと、青島君が私に"何か"を伝えようとしたのは、同時だった。
青島君の目が見開かれて、私を見つめる。(い、たい)その目は、優しいはずなのに、どこか、痛い。それはきっと、今の私の行動によって青島君が傷ついたから。
 私は、青島君に想いを伝えられるのが怖くなってしまった。
青島君から離れたことによって、私の心臓はだんだんと静かになっていく。

「みょうじ……」

それは、べつに、普通の声だった。だけどどこか、いつもの声とは違う。
 私は思わず溢れた涙を隠すことすら忘れて、その場から走って逃げた。


(私が臆病なせいで、近づいた距離がまた離れてしまう)



 20140109