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 青島君がメロンパンをくれたあの日から、いつだって私の頭の中で青島君で一杯だった。それがどうしてかは分からないけど青島君が優しくしてくれたことがすごく嬉しくて、私はまた青島君と話せないものかと考えてしまう。

 今日の昼休みはお弁当だったから教室で友達と一緒にお弁当を食べていた。
「なまえ、最近なんかボーっとしてるね」
「えっ」
不意に箸を持つ手を下ろした友達が、私をじっと見つめてそう言う。
「もしかして恋でもしてる?」
今度は隣に座っていた友達が面白そうにそう言ったものだから私はどうしてか自分の顔が真っ赤になっていることに気がついた。べつに、心当たりがあるわけでもないのに。

「ちっ違う違う!恋なんてしてないよ!」
あまりに慌てていたものだから、つい声が大きくなってしまった。それを聞いた友達は笑いながら私の頭をぽんぽんと叩いて「分かったから落ち着きなって」と宥める。私は恥ずかしさのあまり下を向いてしまったけど、次の瞬間、友達が「青島だ」と言ったのに反応して顔を上げた。

「ほら、あそこ」
友達が指差したその先を目で追うと、そこには私のクラスの男子に声を掛ける青島君の姿があった。(青島君…!)私は持っていたお箸を置いて、ちらちらと青島君に目をやる。するとそんな私を見た友達が言った。

「なまえ、青島と仲良いんでしょ?声掛けてきたら?」
「えっ、い、いや、私はそんな…」
「いいから、ほら」
「!」

少し強めに背中を押されて、私は赤くなる頬を隠しながら青島君に駆け寄った。
タイミング良く友達との会話を終えた青島君がこちらに気付いて、笑顔を浮かべる。

「おっ、みょうじ」
相変わらずの笑顔に、私はやっぱり嬉しくなった。

「もう昼食い終わったのか?」
「う、うん。もう終わったよ」

本当はまだ途中だったけど、青島君と話していたかったから嘘をついてしまう。すると青島君は「そっか」と言って笑った。

「あっ」
「ん?」
「こ、この前のメロンパン…すごくおいしかったよ、ありがとう!」
「あぁ、なら良かった」
「今度、絶対お礼するから…な、何か欲しいパンとかあったら、私買ってくるよ」
「ははっ、それじゃあパシリじゃん!」
「!!」

(っこの笑顔は、はじめて、だ)
みょうじは面白いこと言うんだな、とお腹を抱えて笑う青島君を見つめて、私は顔がだんだんと熱くなっていることに気付く。
笑いが収まったのか、青島君は「ふう…」と薄く息を吐いてから、私をみて言った。

「そんだけ喜んでくれりゃあ、もう十分だって」
「! っあ、青島君…」
「ん?何だ?」
「あ、あの、ありがとう」
「…!」

私が満面の笑みでそう言うと、青島君はしばらくそのまま固まった後すぐに口元を手で覆って私から目を逸らした。(…?どうしたんだろう)
「青島君?」
そう問いかけるとやっと青島君は口元から手を離して私を見る。その顔はどこか、赤くなっているようにも見えた。熱でもあるのだろうか。だったらあまり長話してると熱が上がってしまうかもしれない。
「あ、あのさ、みょうじ…」
青島君はそう言いかけたけど、私は青島君の体を気遣って、会話を中断させた。

「あっ青島君!」
私が声を上げると青島君は吃驚したように私を見たけど私はそんなの気にせずに続ける。
「も、もうそろそろ教室戻ったら?」
「えっ、なんで」
「いいからっ!」
半ば無理矢理に青島君を隣の教室へと押し込む。青島君は何が何だが分からないというような顔をしていた。しかし私はそれに気付かず、私よりも少し高い位置にある青島君の肩をぽんと叩いて「辛かったら無理しないでちゃんと保健室行くんだよ!」と言う。その時の青島君は頭にハテナマークを浮かべていたけどすぐに笑って「ありがとな」と返してくれた。


 私も教室に戻り、ドアを閉めてからそのまま寄りかかる。
(心臓が、くるしい)熱があるのは私の方なのかもしれない。青島君の笑顔がいつまでも忘れられなくて、青島君に会って話す度に、青島君を見かけるたびに、だんだんとこの不思議な気持ちは膨らんでいく。こんな、こんなのに理由を付けるとしたら……


「なまえ、最近なんかボーっとしてるね」

さっき友達に言われた言葉を思い出して、私は口元に手をやった。顔が、熱い。じんじんと体中が熱くなる。こんなの、おかしい。(ああ、これは)

「もしかして恋でもしてる?」

そうか分かったぞこれは恋だ。


 20140108