bookshelf | ナノ
 久しぶりに予定が合ったから、勉強を教えてほしいとなまえがお願いしてきた。
僕となまえは付き合ってしばらく経つ、いわゆる恋人同士という関係だ。彼女であるなまえがテストで赤点を取って泣く羽目になるのは御免だったから、僕は快くなまえのお願いを聞き入れることにした。どうせなまえのことだから10分も持たないだろうと思い、場所は図書館でなく僕の家にしたのだけど…



「まさか10分すら持たないなんて思わなかったよ」


 勉強会を開始して早5分、なまえは「もう限界」とペンを置いて机に顔を伏せてしまったのだ。
(こうなるとは思っていたけど…)
普通に問題を解いていれば10分なんてすぐに過ぎてしまうものだと思うのだが、どうやらなまえは普通に問題を解く集中力もないらしい。まあそれはそれでなまえらしいと思う。僕は手を止めてなまえの肩を揺らした。

「なまえ、ほら、とりあえず顔上げなよ」
「んー……」

なまえの声はもう完全にやる気を無くしていて、僕は思わず苦笑する。なまえは一度こうなってしまうとしばらくは立ち直らないから、仕方が無い。僕だけでも勉強しようと思いまたペンを走らせた。

 5分、10分、また時間が過ぎていく。人には勉強の向き不向きがあるとは言え、こんな短時間の勉強さえもできないのは僕にとって不思議以外の何物でもない。
(寝ちゃった…かな)
僕は一旦手を止めて、顔を伏せたまま起きないなまえを見つめる。するとなまえは顔を上げずに、ちょいちょいと僕の服を摘んでそのまま何度か引っ張った。

「和人、」

今にも寝そうななまえの声。それが何だか可愛くて、だけどこれじゃあ僕まで勉強ができない。とりあえず手を離してもらおうと思いなまえの手を優しく振り払ったのだが、それでもなまえは僕の服を摘んだままだ。

「…和人、かわいい」
「!」
「和人ー」

ようやく手を離したかと思いきや、今度は僕の頬をつんつんと突いて楽しそうに笑うなまえ。僕なんかよりもその顔の方が何倍も可愛いというのは置いといて、これじゃあ勉強にならない。

「なまえ、分かったからそろそろ離してくれないかい」
「和人が可愛いのが悪いの」
「…僕は一応、男なんだけどな」
「分かってるよー」

(絶対分かってない…)
こんな二人きりの部屋で、恋人である僕に軽々しくこんなことをできるのは、きっと僕をちゃんと男として認識していないからだろう。そう考えると何だか不満に似た感情が滲み出てくる。それでもまだ僕の気持ちに気付かずちょっかいを掛けてくるなまえに、とうとう僕は仕返しをしてやろうという気になった。

「なまえ」

少しドスの効いた声でなまえを呼び、持っていたペンを机に置く。それに気付いたのか、なまえは「やっと構ってくれた」とでも言わんばかりの顔で僕を見た。しかし僕はそんな嬉しそうななまえに優しい笑顔なんか向けず、強めになまえの肩を押して床に組み敷いてやった。

「か、和人?」

やっと自分の状況を理解したのか、なまえは焦ったように顔を赤くする。そんななまえを見下ろして、僕は自分の中にある黒い感情を隠せずに口角を釣り上げた。

「あれだけ好き勝手したんだから、倍返しされる覚悟はできてるよね?」
「えっ、ちょ、待っ……―ッひ、うあ」

僕は片手をなまえの服の中に滑り込ませて、さわり心地の良いなまえのお腹をスーッと優しく撫で上げる。その途端に、なまえはびくびくと体を震わせて更に顔を真っ赤にした。スルスルと手を動かす度になまえの切羽詰まったような声が漏れる。

「っう、やッやめ、かずと…っむ、むり、やめ、ッうう」

余程くすぐったいのか、なまえは「私が悪かったからもうやめて」と途切れ途切れに口を開いた。普段から人の倍くすぐりに弱いなまえにとって、この行為は地獄以外の何物でもないだろう。僕は"やり返している"というこの状況が楽しくて堪らない。何をしている時よりも気分が良かった。
 しばらくなまえの体を弄った後、そろそろ許してあげようと思い手を離すとなまえはぐったりと床に倒れ込み肩で息をする。その姿はまるでそういうシーンを想像させるものだから、かなり心臓に悪い。僕は少し乱れたなまえの服を整え、体制を戻した。

(ちょっと、やりすぎちゃったかな…)
未だに真っ赤な顔のまま蹲っているなまえの肩を優しく揺らして声を掛ける。

「なまえ、大丈夫かい?」
「っ、うう……」

ゆっくりと起き上がったなまえは、涙目で僕を睨みつけた。しかしその顔はお世辞にも怖いとは言えなくて、僕は苦笑してしまう。

「ごめんね、ちょっとやりすぎたよ」
そう言ってなまえの頭を撫でると、なまえは少し悔しそうに顔を逸らした。そのくせ撫でられるのを全く嫌がらずに受け止める。なまえはまるで犬みたいだ。そう思うと何だか可笑しくて、僕は思わず笑みを零した。

「なまえ」
「ん…」
「大好きだよ」
「っ、!」
「それと、まだまだ勉強の足りないなまえに教えてあげる」

するとなまえは少しだけ顔を上げて、僕を見つめた。そんななまえの頬にキスをして、僕は勝気に微笑む。またなまえの顔が赤く染まった。


「僕にとっては君の方が何倍も可愛いってこと」



構ってちゃんの可愛いところ


 20140419
匿名様リクエスト 皆帆甘腹黒夢
リクエストありがとうございました!