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※皆帆長編「愛くるしい」の40話の夜のお話。この作品だけでも読めますが「ん?」ってなる部分もあるので長編の方も読んで頂けると嬉しいです。性描写有り。





 和人に強く抱きしめられながら、私は緊張のあまり声すら出せなくなっていた。

「誘ったなまえが悪いんだ」
和人もまた余裕のない声でそう言う。いつもはどこかお気楽で周りよりも大人びている和人だけど、それでもやっぱり和人は私と同じ中学生なんだなと実感させられた。ばくばくと心臓が大袈裟なくらいに音を立てる。和人に聞こえていないか心配だ。私だってこれでも和人より年上なのだから余裕のひとつくらい見せつけてやりたいと思った。しかしそれは思うだけ。実際、こんな状況で余裕をかませる女の子はここにはいない。
私は緊張しまくりの声で和人に言う。

「…あ、明日も練習、あるんだよ?」

せめてもの抵抗のつもりだった。完全に無抵抗というのも何だかなと思ったから。しかしそれは和人には逆効果らしく、まるでぎらりと目を光らせた獣のように口角を上げて笑われる。
「だから、どうしたんだい?」
「っ!」
いつものようににこにこ笑っているように思えたがそうじゃない。こんな和人は初めてだ。この子は本当に年下なのかと疑ってしまうほどに妖艶な笑み。心臓がどくんと大きく跳ねて、私は真っ赤になった顔を逸らした。

「……か、和人は、いいの?」
「え?」
「私は、あくまでも"男の子"だよ?キャプテンたちや和人と同じ男の子としてここでサッカーして生活して…髪だってこんな、み、短いし、さくらみたいに可愛い仕草も恰好もできない、……誰がどうみたって私は
「女の子だよ」

気付けば今までずっと心のどこかに溜めてきた不安を滝のように口から零していた私に、和人は優しい笑顔でそう言った。思わず目を見開いて和人を見つめてしまう。すると急に、掴まれていた腕を優しくスルリと撫でられた。

「っ、ひ、」
「ほら。君はそうやって可愛い声を僕だけに聞かせてくれる」
「!!」
「確かにここで生活している"君"は男の子だね。でもそんな君は、僕の前だけではなまえという可愛らしい女の子になるんだ」

それってすごく、嬉しいことなんだけどな。そう呟いた和人に私はますます顔を赤くした。
あまりに真っ直ぐで直球な和人の気持ちに嬉しいような恥ずかしいような心境でいる私を見つめて、和人は嬉しそうに頬を染める。
「かわいいよ、なまえ」
私の腕を撫でるように触っていた和人の手が少しずつ上にのぼって、今度は首元を触られた。

「っ…か、かず、と」
「好き」

どくん。また心臓が跳ねる。
首元から頬へとゆっくり手が動いて、時折爪が肌を優しく引っ掻く度にびくびくと体が反応してしまう。そんな私を楽しそうに眺める和人は、いつもの何倍も色っぽく見えた。

「ねえ、もういいかな」
ふっと耳元でそう囁かれ、私の緊張はピークに達する。

「君に触れたい」

和人の手が、じんわりと熱を帯びた。





「っん、んう、はぁっ」

熱くてしつこくて、溶けてしまいそうな和人のキス。ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて口内を掻き回されて、まるで口の中全体が性感帯になってしまったみたいだ。和人の下が歯列をなぞって、唇の裏を厭らしく舐める。和人がキスをする角度を変える度に、微かに開いた隙間から私の吐息が漏れた。
「なまえ、……っなまえ、なまえ」
和人は次第に私を抱きしめる力を強めながら、体重を掛けてくる。ぴたりとくっ付いた体から和人の体温が伝わってきた。どくんどくん。どちらのものか分からない鼓動の音も、まるで真夏の熱帯夜みたいな熱い空気も、全部、全部愛おしい。

「もっと、声、聞かせてよ」

いつもよりずっと低い声が耳に響き、ぶるりと体が震えた。
しかしそんな和人の声に浸る暇もなく、和人に耳をかじられて甲高い声が口から漏れる。
「んっ、やぁ…ッ!」
まるで自分じゃないみたいな声。
(きもち、わるい…!)咄嗟に片手で口を塞いで声を抑えると和人はそれを横目で見ながら私の耳に舌を這わせた。

「ひあぁぁあ、あ、あっ、や…!」

ゆっくりとキャンディを味わうかのように念入りに舐められて体が大きく反応してしまう。和人の舌はやけどしそうなほどに熱くて柔らかくて、少しざらざらした感覚すらも私を快感へと導いた。
「声聞かせてって、言ったよね?」
ちょっとだけドスの聞いた声に思わずぎゅっと目を瞑る。もう口を塞ぐことすら忘れて快感に耐える私の耳を、和人はぱくりと口に含んだ。そして口の中でくちゅくちゅと厭らしく舐め回す。吸ったり、噛んだり、少し強めに舌で擦ったり。最大の弱点である耳をそんな風に扱われて正気でいられる訳がなかった。

「んんー!あっや、やめ、ふぁッあぁん、か、かず、ぁあ!」

びくびくと痙攣するみたいに体が震えてどうしようもない。
(きもちいい、きもちいい、)強すぎる快感に耐えきれず和人の背中に爪を立てて強くしがみついた。和人もそれに答えるように私をもっともっと強く抱きしめる。汗ばんだ肌同士が密着してすごく熱い。そんなことくらいしか考えられなくなった脳も、もう限界のようだった。何とか理性を失わないようにと必死になっていると、不意に服越しではあるが硬くなった何かが股のあたりに押し付けられる。私はそれの正体に気づき、体を強張らせた。

「っかず、と、」
「言ったよね。誘った君が悪いって」
「!? ひっあ、あ、そん、な…待っ
「無理」

和人は切羽詰まった声で私の要望を断ったと同時に、大きく勃ち上がった自分のそれをぐりぐりと私の股に擦りつける。それは私たちの下着とズボンを合わせて四枚の布越しなのにすごくリアルに感じてしまい、今まで以上に強い羞恥を感じた。

最初は優しかったその行為もだんだんとヒートアップし、和人はまるで体が交わっているかのようにズンズンと私の股に自分のそれを打ち付ける。あまりの恥ずかしさから、逃げようと腰を引いた私に気づいたのか和人は私の腰を強く掴みまた自分の方へと引き寄せた。こうしてまた密着してしまい先程と同じ行為が繰り返される。自分の秘所がじわりと濡れているのが分かり、私は何度か「やめて」と和人に訴えた。しかし和人がやめてくれるわけもなく、それどころかさっきよりも強く腰を打ち付けられる。

「っん、んん、う」

はっきりとした快感こそ得られなかったが、中途半端な快感に膣の奥が疼いてしまい涙が滲んだ。
泣き顔を見られたくなくて顔を背けたことにより耳を和人の方へ向ける形になってしまったようで、和人はこれでもかというくらい耳を噛んだり舐めたりして徹底的に私を攻め続ける。

もう、ほとんど限界だった。

「あっ、あう、あ、ッんん〜〜!!」

和人が一際強く腰を打ち付けたと同時に私の体はびくんびくんと大きく跳ねる。じゅわ、と下着に何かが零れる感覚と、ひどい疲労感。もう腰に力が入らなかった。
ぐったりと和人に倒れ掛かった私を、和人は優しく抱きしめた。私も弱弱しく和人の背中に腕を回して、程よく筋肉の付いた華奢な体にきゅっと抱きつく。優しくて温かくて、だけど少しだけ鼻につく厭らしい匂い。私は額に汗をかきながら目を瞑った。
(和人、和人…和人、好き)

「だい、じょうぶ…?なまえ、」
「っん…うん、だいじょうぶ、だよ」
「そっか…良かった」

和人は安心したように笑って、私の首元に顔を埋める。すると鎖骨の辺りにちくりと刺さるような痛みを感じた。
「か、和人?」
「…今はまだ、これで我慢…かな」
少し困ったような声でそう言った和人に対し首を傾げると、和人はまた熱くて深いキスをする。

「っ和人……わたし、いいよ。さっきの…直接してくれて、いいんだよ…?」

今更気なんて遣ってほしくない。そんな気持ちのあまり、私は和人を追い詰めるようにして和人のそれを優しく握った。そして少しだけ力を込めて、和人を見つめる。私と同じくらい頬を紅く染めた和人は唇を噛みしめながら私を見つめ返した。
(あ、ちょっとだけ、私が攻めてる感じ)
あまりに和人が押され気味な表情をしていたから調子に乗ってもう少しだけ強く握ろうとした私だったが、がしりと和人に肩を掴まれたかと思いきや強くベッドに押し付けられて一気に攻守交代となってしまう。せっかく和人を攻めようと思ったのに、結局はこうなってしまうのか。そんなショックを受けていたのも束の間、和人の低い声により現実に引き戻される。

「言ったね?」

目の前でにやりと口角を釣り上げる和人をただ唖然と見つめながら、ああ今のは言うべきではなかったと半分だけ後悔した。

「やめてって、もう無理って言おうが絶対にやめないから」
「え、待っ、かず
「ちゃんと最後まで付き合ってもらうよ?」
「!!!」

私が眠れない夜が来るまで、あと三秒。


 20140328