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※皆帆→夢主→久坂→好葉



 好葉ちゃんのことは、数少ない女友達として本当に好きだった。だから久坂君が好葉ちゃんを好きって知った時、なんか、好葉ちゃんなら、良いのかなって思った。悔しくて涙はたくさん溢れてきたけど、それでも二人のことが好きだったから。大好きな二人が幸せになるなら、それは私にとっても幸せだと思い込ませて、ただただ練習だけに集中する毎日。べつに、辛いとか、そういうのは無くて。割り切ってしまえば意外とどうにでもなった。

「なまえ、最近調子良いね!」
「ほ、本当?ありがとうキャプテン!」
割り切って、気持ち押し込めれば練習にだって集中できたしキャプテンにも褒められるし神童さんや剣城君にも少しずつだけど認められるし、ああなんだ結局これで良かったんじゃないか。
 私がいつものようにドリブルの練習をしていると、不意に久坂君と好葉ちゃんが話しているのが目に入ってしまって一瞬だけ身体が動かなくなった。
(あ、ああ、)
私の足から離れてどこまでも転がるサッカーボールが、少し遠くにいた皆帆君の足元で止まる。皆帆君は慌てて駆け寄る私を見てからサッカーボールを見つめて、それから何かひらめいたようにして久坂君と好葉ちゃんに視線をやった。そしてまた、視線が私に戻ってくる。皆帆君は言った。

「もう諦めたように見えたけど」
「、え…?」

すぐさま皆帆君はサッカーボールを私に向かって軽く蹴る。私はそれを受け止めて、皆帆君を見つめた。今言われた言葉の意味が分からない。
「あの、」
「久坂君は森村さんのことが好きだって、よく気付いたね」
「!」

皆帆君は面白そうに笑ってそう言った。私は手でぎゅっと拳を作る。皆帆君に背を向けて、小さな声で返した。
「ずっと、見てたから」
だから全部気付いた。久坂君の視線が、ずっと好葉ちゃんを捕えてることに。だけど、どうしてそんな話を皆帆君にされなきゃいけないんだろう。皆帆君の意図が分からずに少しだけ黙りこむと彼もまた小さな声で私に返した。

「でも、まだ諦めるのは早いんじゃないかな」
「!」
「君にも可能性はあると僕は思うよ」
「……皆帆君には、わかんないよ」
「、それはどういう意味だい?」
そんな皆帆君の問いかけに私はついカッとなって、思いきり振り向いたと同時に少しばかり荒くなった声で言い放つ。

「皆帆君は恋なんてしたことないだろうから、人がどんなに強い意志で、どれだけ一途にその人のことを想うかなんて、分からないよ」
「…!」
「久坂君は、好葉ちゃんのことしか見てない!」
「、それは…」

皆帆君が不満そうな顔で何か言いかけたと同時にキャプテンが「皆帆になまえ、どうかした?」と駆け寄ってきたため、皆帆君はその口を固く閉じた。
「ううん何でもないよ」皆帆君がそう言って練習に戻って行く。私の顔なんて見ようともしなかった。私とキャプテンはそんな彼の背中を見つめて、唖然と黙り込む。だけどすぐにキャプテンが私に言った。

「皆帆と何かあった?」
「、え、あ…違うの、ごめんね練習の邪魔しちゃって」
「それなら良いんだ、気にしなくて良いよ!」
「…ありがと、じゃあ私も練習に戻るね」
「ああ!」

キャプテンに背を向けて私も練習を再開する。だけどさっき皆帆君が言いかけた言葉が、やけに気になって練習に集中できなかった。
その後の練習中も、ずっと好葉ちゃんを大事そうに見つめる久坂君をただ苦しい気持ちで見つめていた。いつまで、こんな日が続くのだろうと。きっと報われるはずない恋を、いつまで私はしていくのだ、と。



 20130830