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※性描写有り。喜多が駄目男になる話。主が可哀想な目に合うお話です。



 クラスで一番成績が良かった喜多君のテストは、何時しか全て0点と記されるようになった。つい最近の席替えで隣の席になった喜多君は、ぼんやりと黒板を眺めるだけで前みたいな生気は放っていなかった。
喜多君の隣の席になるのは、確か三回目くらい。サッカーが大好きで優しくて人の良い喜多君は、男子からも女子からも平等に好かれていた。喜多君の隣の席になった時、友達に席を変わってくれとお願いされたが断った。私も少しだけ、喜多君のことが好きだったのかもしれない。

 初めて喜多君とした会話は、サッカーの事だった。ホーリーロードの予選で敗退した天河原中サッカー部は、次こそは勝つという気合いに溢れてて、喜多君もサッカーと勉強を両立して頑張っていた。そんな中、私は喜多君とふいに言葉を交わした。
「試合、惜しかったね」
「見てくれたのか?」
「うん、喜多君やっぱりサッカー上手いよね」
「俺はそこまで上手くないさ。その証拠に初戦敗退しただろ。でも、好きだから自然と上手くなりたいって思うんだ」
「…喜多君は、」
「?」
「サッカー、好きなんだね」
「ああ」
それだけの会話も、私にとっては幸せで嬉しいものだった。それからも度々、私と喜多君は言葉を交わす関係になった。メアドを交換したのはそれからしばらくしてからの事。喜多君が携帯を持っていた事には、何より驚いた。

 喜多君の様子がおかしくなったのは、メアドを交換してから一か月後。メールをしても返信が来なくて、忙しいのかなと思い学校で会った時に話し掛けてみれば虚ろな声で返された。どうしたの、なんて聞く勇気は無かった。その時の喜多君は、少しだけ、怖かった。

とある日の休み時間に、意を決して喜多君に話し掛けた。前よりずっと細くなったように見える腕と足。ううん、違う。筋肉が落ちてるんだ。そう分かった途端、心が痛くなった。
喜多君のペンポーチに付いていたサッカーボールのストラップが外されていた。喜多君の周りから、サッカーが減って行った。

「ねえ喜多君」
「…何だ」
「部活…最近行ってないでしょ」

ピタリ。喜多君が固まったように動かなくなる。そんな喜多君の肩に手を置いて、必死に語りかけた。

「ねえ何で。サッカー好きなんでしょ?」
「みょうじには関係無い」
「あるよ友達だもん」
「、」

喜多君と目が合う。生気のない目だった。
こんな目で、彼はどんな世界を見ているんだろう。私の顔すらも、認識できていないんじゃないかと思うくらい虚ろで、焦点の合ってない目。喜多君、今すぐにでも死んじゃいそうな顔してる。こんな喜多君、私知らない。

「友達…?」
「そうだよ、友達だよ。ねえ喜多君なんでサッカーやめちゃうの?あんなに楽しそうに話してたでしょ…サッカー好きだって」
「…みょうじ、」
「え?」

がしりと腕を掴まれた。真っ白な腕。少し前までは綺麗な腕だったのに、今は少しだけ骨が浮き出てる…と言ったら過言だろうか。けれどもやっぱり、彼はおかしい。喜多君に何があったのか、知りたかった。

「放課後、話があるんだ。少し時間をくれないか」
「え……あ…う、うん。分かった」

そう言うとスルリと離れていく腕。喜多君は机の中から本を取り出して、読み始めた。
それから放課後までの時間は流れるように過ぎていって、気付けば帰りの会が終わった。

「喜多君、話って…」
「ああ、人がいる所じゃ駄目なんだ。トイレで良いか?」
「…え…でも私、男子トイレ入れないよ」
「良いから、ほら…!!」
「っ、え、!」

いきなり腕を掴まれて、喜多君は走り出す。肩にかけていた鞄が滑り落ちて、教室に置き去りになる。走って教室を飛び出した私達を見て、他の生徒は「何あれ」といわんばかりの表情をする。私は訳も分からないまま男子トイレに連れ込まれた。

「っちょ、ちょっと喜多君!何考えてるの、私出るから!」

 結構、気が動転していた。いきなりすぎる展開に頭がついて行ってなかった。バシッと喜多君の手を払って、ズカズカと歩きだす。男子トイレには誰もいなくて、シンと静まり返っていた。(誰もいなくて良かった…)男子トイレの出入口がすぐ目の前になった瞬間、後ろから羽交い締めにされる。(え、)

「っ、ひ!」

そこからは流れるような作業だった。喜多君にまた腕を引っ張られて個室に連れ込まれる。ガシャンと鍵が閉まったのを確認した喜多君は、私を便器に無理矢理座らせた。両肩に手を置かれて体重をかけられる。立ち上がれない。男子トイレ独特の匂いは、女子トイレとはまた別に匂いだった。女子トイレは少しだけ香水の匂いがするけど、男子トイレはただ臭いだけ。

「き、喜多君…何、してるの…?」
「何って、みょうじが言ったんだろう」
「え?」
「俺と友達だって」
「…い、意味…分かんない…何言ってるの、」

喜多君に睨まれた。正直、かなり怖い。生気も光も失った喜多君の目は、もはやブラックホールでしかなかった。今にも吸い込まれそうな黒みたいで、怖かった。私はこれから何をされるの?分からない恐怖と不安で涙が溢れる。

「友達だろ?だったら受け入れてくれるよな」
「き、喜多君…!やだ、やめて離して!!」
「みょうじが悪いんだろう!人を誘ったりするから!」
「っ、は…!?な、何言って、っ誘ってなんか無い…!」

喜多君は何も言わず、ポケットから紐を取り出した。細くも太くもない、丁度良い紐。私はそれを唖然と見つめながら、涙を零し続ける。次の瞬間、喜多君に両手首を強い力で掴まれた。片手で器用に手首を紐で結んでいく。ちょっと、待って…冗談じゃない。喜多君、どうしちゃったの。

「き、喜多く…やだ!やだやだ!離して!!」
「うるさいな、ちょっと黙っててくれ」
「やだぁ…!!離してよお!!」
「うるさい!!」
「ッ!?」

鋭い金属が風を切る音。目の前に、ナイフが突きつけられた。

「黙らないとその顔面ぐちゃぐちゃにしてやるからな」

その言葉は、もう喜多君のものだと思いたくなかった。恐怖によって余計に溢れ出す涙。喜多君はナイフを片手に、わたしの腕を強く掴み強引に立たせた。恐怖で足がすくむ。無理矢理引っ張るようにして立たされたせいで、まともに立っていることができない。私がよろけた次の瞬間、ドンと鈍い音を立てて思いきり壁にたたきつけられた。

「ッ、うあ!」
背中を強打したことによって滲みでる涙と冷や汗。呼吸が止まる。怖い。
 喜多君はただ表情すら変えずに私を壁に押し付けて片手を私の服の中に忍ばせた。ゆっくりとお腹をなぞられてビクリと身体が震える。その時喜多君が少しだけ笑ったような気がした。

「もう…全部、どうだっていい」
「っ…え…?」

そう言って喜多君はナイフを床に捨てた。それに私は少しだけ安心する。しかし喜多君の言った言葉の意味が理解できずに見つめると喜多君は私の首筋に顔を埋めた。
「き、喜多く…!」
突然のことに抵抗できずにいると喜多君は私の首筋を痛いくらいに吸い上げる。
「ッつ、ぁっ」
声にならない声が口から漏れた。普段人に触られるような場所でなければ自分で触ることも滅多にない首筋。それが人に吸われただけでこんなにもくすぐったくて変な気分になってしまうだなんて思ってもいなかった。私の首筋から唇を離して、またお腹を弄り始めた喜多君に指先が震える。

(わかん、ない、)
感じたことのない感覚に震えが止まらない。

「や、やめ、て…喜多君…!」
じわじわと快感のようなものが身体を支配していく。すると喜多君はいきなりカチャカチャと金属音を立てながらベルトをはずしていた。その意味は、中学生ならきっと誰にでも分かるであろう。ぶわっと恐怖が立ち込めてきた私は少し強く喜多君の胸を押した。

「っ」
喜多君が声を詰まらせてよろける。しかし私の力が喜多君の力に敵うわけもなく、また壁に押しつけられ今度はスカートの中に手を入れられた。
「待っ、や、やだ…!!」
涙声で叫べば、そんなの気にも留めていない様子の喜多君はただ黙って私の下着を奪う。下半身はスカート一枚だけとなってしまった私は羞恥に耐えられずに大粒の涙をぼろぼろと零す。喜多君が私を見て、言った。

「…ごめん」
「、え?…――っひ、!?」
喜多君の声とほぼ同時に、急に身体をくっつけてきた喜多君の自身が私の股間に滑り込まれた。
硬くなった男性のそれを触ったこともまともに見た事もない私は、ただその異物感に固まってしまう。次の瞬間、私の膣内に喜多君の自身が入り込んできた。

「っぁあ、あ、っんう」
痛さの中にある快感だけがハッキリと伝わってくる。背筋がぞくぞくとまるで波打つかのようだ。だけどやっぱり痛みはあって、喜多君の自身が私の膣内で動く度にピリピリとした痛みが走る。
中に全部入ったのか、喜多君が少しだけ肩を落として息を吸った。

「動く、ぞ」
その言葉を合図にバチュンバチュンと汚らしくて卑猥な音が響き渡る。
喜多君の自身がぎりぎりまで抜かれて、そして今度はさっきよりも強く奥に突きつけられる。その度に響く音と、私の喘ぎ声。それに混ざって聞こえる喜多君の苦しそうでしかし気持ちのよさそうな吐息がやけに色っぽくて、もう頭がおかしくなってしまっていた。

ひたすら抜き差しを繰り返されて口は閉じられずに涙も涎もぼろぼろ垂れ流し、きっと今の私はすごくすごく汚くてだらしがないだろう。それなのに喜多君は時折すごく嬉しそうに「可愛い」と零した。
普段なら。普段の喜多君ならきっと。普段の私ならきっと喜多君に「可愛い」なんて言われたら恥ずかしさで死んでしまうかもしれない。だけど、今は何も感じない。ただ少しだけ薄まった恐怖と快感。それが混じり合って私はもう何も考えられないでいた。

「んぁ、あっ、ひぃうっんんっ!!」
「っはぁ、あ、出る…ッ!」
「ッんう!?っ――!!!ひっ、あ…!!」

喜多君が少し身体を丸めて何かに必死に耐えるように震えた。
次の瞬間、びゅうびゅうと私の膣内で何かが放たれる。お腹が膨れて苦しいけれど、それ以上に気持ちいい。これが、誰かから聞いたことのある"射精"なのだろうか。
しばらくすると喜多君が疲れたような顔をして、ずるりと私の膣内から自身を抜いた。すると私も喜多君も同時に床にへたり込む。ずるずると壁を伝って、最終的にはドサリと倒れ込んだ。

「は、あっ…はぁ、あ」
「ッ…みょうじ、っは、ぁ…みょうじ、…みょうじッ、」
「!…き、たくん…?」

 苦しそうに、悲しそうに私を呼んだ喜多君に目をやると喜多君はぼろぼろになって泣いていた。
その涙はとてもとても悲しそうで、後悔をしていて、見ているだけで私も悲しくなってくる、そんな涙。
私は力尽きたであろう手を必死に喜多君の頬に寄せて、問いかける。
「喜多…君、ど、うしたの…?」

(なんで、泣いてるの?)

「っう、ぁ…ふ、っぐ、ッ」
喜多君は何も答えずにただ泣いて、泣いて、私の顔なんて見ようとしなかった。
喜多君に犯された身体が少しだけ痛む。だけど、私は必死に喜多君の頬を優しく撫でた。泣かないで、って。喜多君が泣いてるのを見ると、私まで苦しくなる、と。
 不意に喜多君が少しだけ身体を動かした。その拍子にだらしなくずり落ちた喜多君のズボンのポケットからコトンと音を立てて何かが落ちた。私はそれを見て、目を丸くする。

「……喜多、君…」

そこに落ちていたものは、喜多君がいつからかペンポーチから外していた、サッカーボールのストラップだった。
私がそれに気付くと、喜多君はゆっくりと、恐る恐るストラップを手に握る。そしてそれを、大事そうに、本当に本当に大事そうに握り締める。ぼろぼろと零れる涙は止まる事を知らない。


「好きだから自然と上手くなりたいって思うんだ」

 あの日の、喜多君の笑顔を思い出した。
喜多君は本当にサッカーが大好きで、大切で大事で。だから自分が弱くても強くなろうと前を向いて走ることのできる強い人。そんな喜多君を、私は何時の間にか好きになっていた。サッカーが好きな貴方だったから。素直にサッカーを愛していた、貴方だったから。

「…喜多君……、」
小さく震えながら泣きじゃくる喜多君をそっと抱き寄せた。
ストラップを握りしめた手に自分の手を重ねて、優しく問いかける。


「サッカー、好きなんだね」

 喜多君は泣きながら、小さく頷いた。


なみだを堪える瞼のしたたか
Someday, I want to be a person that you can wipe your tears.


 20130807