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※性描写有り



 新開君は優しい人だと思っていた。どんな時だって温厚な態度で人に接していたし、何より気遣いができてとても信頼できる良い人だと。
でも違った。
新開君は確かに優しい。男女平等に接するところも、決して人の悪口をグチグチと言わないところも、というよりすごく男らしいし女子からも人気がある。少し話がずれてしまったが、何が言いたいのかというと新開君はとても可哀想な人なんだ。

「っうぁ、あ、ひッ」
新開君と体を重ねるのは初めてのことではない。ことの始まりは、新開君が想いを寄せている女の子に振られてしまったことが原因だった。
 新開君とはクラスが同じこともあり仲が良かったが、恋愛対象かというとそうでもない。確かに新開君は恰好良いと思うし自転車も速いし好きになってしまいそうな要素が一杯だ。それでも私は新開君が本当は可哀想で健気だということを知っていたから、好きになることなんてなかった。
そんな新開君と初めて体を重ねた(というよりは無理矢理犯された)のは、確か先月の終わり頃だったと思う。ずっと好きだった子に振られて泣いている新開君を私は見てしまって、それに気づいた新開君は整理のつかない頭のまま腹癒せなのか穴埋めなのかよく分からないまま私を抱いた。あの時の新開君の顔は、自転車に乗っている時よりもずっとずっと怖かった。

 しかし一度覚えてしまった快楽はそう簡単には忘れられず、今ではすっかり使い慣れてしまったこの空き教室には、私と新開君の呼吸の音がよく響く。私は、涙に濡れた新開君の頬を手さぐりで撫でた。

「しんかい、くん」

新開君が私を抱くのは、機嫌が悪い時と、すごく寂しくて悲しい時のどちらか。機嫌が悪い時の新開君はとても乱暴で、涙を流している時の新開君はとても弱弱しい。
 新開君の長くて細い指が私の膣内をこれでもかというくらいに掻き乱して、中から愛液をほじくり出すみたいに指の抜き差しを繰り返す。痺れるようなこの感覚は、どうも嫌いになれないのだ。
「ふぁ、あ、あっあ、やだ、や、」
「ごめん」
「しん、新開く、っ」
「ごめんな、ごめん、みょうじ」

透明な涙で頬を濡らした新開君はすごく弱気で、口を開けばすぐに謝罪の言葉を口にする。そのくせ指はちゃっかり動かして私を責めたてるから、どこか腹立たしい。早くイカせてくれれば良いのに、早く中にいれれば良いのに、どうしてそんな怖がるような目付きで私を犯すんだ。

「うあ、あぁぁ、んうう…!」
「っごめん、も、無理」

今日の新開君は余裕がないようで、切羽詰った表情のままベルトに手を掛けた。カチャカチャと音を立てながら雑な手つきでベルトを外す。新開君の頬を濡らす涙はやがて乾き、その目は快感に歪みとても気持ちが良さそうだ。
(新開君、)
私は心の中で彼を呼ぶ。柔らかい髪にそっと触れれば、新開君は噛みつくようなキスをした。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てるのはわざとだろうか。個人的にすごく恥ずかしくて嫌だけど、それでも、新開君がすることなら許せてしまう。受け入れることだってできてしまう。
口内で暴れまわる舌から必死に逃げていると、秘所に何か硬いものが当たった。それはひどく熱を持っていて、今にも溶けてしまいそうだ。どくんどくんと激しく動く新開君の心臓の音が、密着している身体から伝わって頭に響く。あつい。夏でもないのに、全身が熱くて死んでしまいそうだ。
(はやく、ほしいよ、ねえ)

「っ、しんか、い、くん…」
「、」

(ちょうだい)

 それは口に出すことなく、新開君の口の中に吸い込まれて溶けた。
しつこいくらいの激しいキスに腰が抜けてしまったが、そんなのは新開君には関係がないらしい。もうすでに何度か新開君を受け入れたことのあるその場所に、熱くて大きいものがはいり込んでいく。ゆっくりと、確かめるように頬を撫でられて涙が溢れた。
何もかも、新開君のせいだ。こんなにも新開君が幸せそうだから、私は抵抗することもこの行為をやめることもできない。いつのまにか新開君に飲み込まれていった私の心は、きっともう助かることはなさそうだ。


「っ…好きだよ、みょうじ」


また幻聴が聞こえた。妙にリアルな幻聴だった。
心地のいい低温が耳に響いて、何も考えられなくなる。体の奥まで新開君で一杯になってしまった。
「新開く、ッふ、ぅん、すき、っぁあ!あ、す、好き…!」
自分が何を言ったのかよく分からないまま、私の意識は暗闇へと落ちていく。私はあと何回、新開君と体を重ねることになるのだろう。この曖昧な気持ちの答えが、いつかはっきりと分かる時は来るのだろうか。
 私が軽々しく口に出す「好き」という言葉は、新開君を幸せにするものではないというのに。私の声を聞く度に嬉しそうに笑う新開君は、とても悲しくて、とても健気で、とても、可哀想な人だ。



愛になりきれなかったなにか


 20140609
タイトルサンクス 彼女の為に泣いた