bookshelf | ナノ
※性描写有り




「っホンマ、あほ、やないの」

 御堂筋くんの声だけが、耳に届いていた。
でろでろに溶けてしまいそうな脳とか、思考回路とか、理性とかそういうの全部、もう何だかどうでもよくなってしまって、今はただ、身体で感じる快感にしか意識がいかない。

 御堂筋くんとはただのクラスメイトから始まって、メアドとか電話番号とか交換するようになって、それから休日に一緒にどこかへ行ったりとかするようになった。
正直、御堂筋くんのことはよく分かってないし、たぶん御堂筋くんも私のことはよく分かっていないと思う。ただ知ってるのは、ケー番とか、性格とか、それだけ。別にそれ以上のことは知らなくてもいいと思っているのは、私だけじゃないはず。御堂筋くんはロードばっかりで、あとはダルいとかキモいとかウザいとか。あいつがウザかった、キモかった。それと、ザクがどうとか、よく分からない話が多い。
別にそれで満足してないかっていうと、実は満足してる。そこまで仲がいいわけでもないのに、御堂筋くんは気付けば私の隣にいてくれた。だから私は今日だって、御堂筋くんが家に来いって言うから、来た。手土産に、クッキーを持って。

 だけどどういうわけか御堂筋くんの家に来て、部屋に入った途端、床に組み敷かれて馬乗りされて胸を揉まれて。嫌だって言ってもやめてくれなくて、状況が理解できない。

「み、どうすじ、くん…!」
「君ィ、ほんまアホで、どうしようもないな」
「っんぅあ、やっ、やめ、」
胸の突起を強く擦られて、こねくり回されて、もはや意識が飛んでるような感じがした。頭で考えることができなくなって、ただ口を開けば「いや」だの「待って」だの、そんなつまらない言葉しか出てこない。
 御堂筋くんは、ぜんぜん楽しそうじゃなく見えた。無表情なのはいつもだけど、今日はいつも以上に、何の感情も持ってない顔。それが怖くて、よく分からなくて、知りたくて御堂筋くんの頬に手を伸ばして触ってみた。

「、なんや」
「な、に…してる、の、御堂筋くん」
薄く開いた唇で、そう問いかけると
「セックス」
とだけ返ってきて、なんかもう、脱力した。

「なんで、いきなり」
気付けば御堂筋くんの手は止まっていたから、呼吸も少しずつだけど整ってきて、普通に喋れるようになってきた。御堂筋くんは面白くもなんともないような顔で私の手を払って、ダルそうに口を開く。

「君、ボクのこと信じきってんなァ思て。ちょっといじめたらどないな顔すんやろなァとか、気になったんや」
「…な、にそれ、」

 別に信じきってるとかじゃないよ。
そう言い返したかったけど、考え直してみると、ああ確かにそうかもしれない、とか思っちゃって。黙ったまま御堂筋くんを少し睨んでみれば、御堂筋くんの素足が私の股間を踏んだ。

「っ、痛っ…!」
「そーゆう顔がなァ、いじめたくなるんや」
「やっ、やめ、足、どけて…!」

 私の急所、壊れちゃうよ。
途切れ途切れにそう伝えると、御堂筋くんは楽しそうな顔をした。壊れたらええやん、なんて下衆なことを言うものだから、私も私で御堂筋くんの股間に足を当ててやった。すると整った眉毛が少しだけ歪む。

「っなに、しとんの、アホ」
「アホなのは、御堂筋くんだよ」

最初から最後まで、訳がわからない。御堂筋くんの考えてることとか、思ってることとか。滅多に顔に出してくれないからわからない。それが嫌だとか、そういうんじゃないけど。でもやっぱり、隣にいる人の気持ちとか、最低限わかっていたいから。
 私がぐりぐりと少し力をいれて御堂筋くんの股間を擦ってみると、バッと大きな手が私の方に伸びてきて、そのまま首を絞めるような形を床に押し付けられた。
御堂筋くんの股間にあった私の足は、首を絞められてる苦しさによって少し宙に浮いた。首にやった手を、離してほしくて。じたばたと足を暴れさせてみれば、今度は片方の手が私のスカートの中に入ってきた。

「っちょ、な、なに、」
「男の家にスカートはいて来るとか、ほんま、警戒心のカケラもあらへんなァ。なまえチャアン」
「やめ、て、ほんとに、それやだ…!」

太ももを滑るようにして入り込んできた手に、腰が浮いた。私の上に乗っている御堂筋くんの胸を力一杯押して抵抗しようとしても、うまく力が入らずに、御堂筋くんの体はビクともしない。「男女の力の差」って、わりと間違ってると思ってたのに。やっぱり女は男よりも弱いらしい。
頭がパニックになって、太ももから与えられる快感と不快感が余計に思考回路をぐちゃぐちゃにした。

「なんや、文句でも言いたそうな顔しとるやん」
御堂筋くんのその言葉に、うっすらと視線を彼に合わせた。
交わる視線が、私の体を厭らしく弄る手が、体温が。もうなんか、全部が私の性感帯をくすぐって、どうしようもできない。

こういうのって、レイプの類に入れたいけど、入らないと思う。だって私が、

(きもちいい、って、うれしくなってる、から)


「御堂筋、くん、っ」
「なァ、みょうじさん」
「っな、に」
「中途半端に、終わらせようなんて思っとらんよなァ、まさか」
「、え…?」

疑問を投げかけようとしたのも束の間、いきなり御堂筋くんの細長い指が私の膣内に入り込んできて息が止まった。

「あ、や、っぁ、みど、すじく…!」
「キッツ…。みょうじさん、自分でいじったりとかせえへんの」
「待っ、やだ、や、やだ…!!」
「質問に答えろや」

痛みを避けるため力を抜こうとしても、余計にぎゅうぎゅうと力を入れてしまい、きっと顔は真っ赤になって、とても人様に見せられる顔ではないと思う。羞恥と快感に涙がこぼれて、御堂筋くんはそれを器用に舐め取っていく。
 膣内の指が少しだけ折れまがったり、ある一点だけを攻めてきたりして、もう足も腰も使い物にならないし、口だって開きっぱなしで、みっともない。
ふいに御堂筋くんの顔が目に入ったけど、御堂筋くんは笑ってなかった。

「自分で、いじったりせえへんの」
再度投げかけられた質問に、思わず体に力が入った。

「ッ、図星、やな。みょうじさん、キツすぎや」
「んう、あ、っや、あぁああっ、あ」
「もっと、声出してもええねんけど。なァ」
「みど、すじく…ん!」
「…何や」

 震える指先で、彼の頬をなぞった。
気分悪そうに見つめてくるその目付きとか、不機嫌そうなのに、どうしてかその声はいつもよりもずっとずっと甘く聞こえる。体中が溶けてしまいそうな感覚に、「もっと」って、言ってしまいそうで。だけどプライドが私の中で生きていて、必死に口を紡いだ。それなのに体は言う事を聞いてくれずに、私はみっともなく甘い声で、御堂筋くんにすがるようにして、欲望を零した。


「…最後まで…して、よ」

その言い切った私に、御堂筋くんは笑顔を見せた。まるで、私の言葉を待ってたみたいに。
御堂筋くんのこういうところが、なんか癪に触るし、ちょっと気に入らないけど、そう思いつつも御堂筋くんの手の平で転がされてる私は、もうきっと彼に恋をしてるんじゃないだろうか。そんなことを思いながら、御堂筋くんの言葉に溺れた。

「みょうじさんのそぉゆう素直なとこ、好きやで」


(嘘か本当かも分からない、擬似餌にだってひっかかる)


 20130505
力つきた・・・