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 千石君は女の子が大好きで浮気者でナンパ好きなチャラ男だ。それなのにいつも隣の席の私に優しく笑いかけたり教科書に書いた落書きを見せてきたり、どうして私なんか構っているのか分からない。

「みょうじさん、今日の放課後空いてる?」
昼休みにいつもみたく千石君は私に話し掛けてきた。千石君の口から放課後という言葉が出てくると、あの日のことを思い出す。
 それは少し前、私が部活帰りに教室に忘れ物を取りに来た日のことだ。誰もいないはずの教室から千石君と誰かの声が聞こえたものだから思わず息を殺してドアの隙間から教室を覗いた。すると私の目に入ってきたのは男女が交わる姿。だいたい想像はできるだろう。それを目の当たりにして、更に相手は千石君。そのときの私は千石君のことが好きだったが、あんなものを見せられては諦める他ない。

あの日から私は気付かれないように千石君を避けてきたつもりだが、なかなか上手くはいかなかった。そもそも気まずくて目すら合わせられない。なのに千石君はいつもと変わらず私に話し掛けてくるから困った。

「今日の放課後は、えっと…行かなきゃいけないとこ、あるから」
「なら俺が一緒に行こうか?」
「っ!?い、いやそんなっ、」

千石君が星を飛ばしながらそんなことを言うものだから思わずガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。ブンブンと首を降って否定する。

「ひ、一人で行かなきゃ駄目だか、ら」
「そっかー、なら仕方ないね。残念だけどまた今度付き合ってよ」
「う…うん」

その気なんてないのに頷いた自分に腹がたった。
 千石君がにっこりと笑う姿を見て、考えてしまう。彼女がいるのに、私なんか誘ってどこに行くつもりだったのだろうか。そして今日の放課後、私に断られた千石君はやっぱり彼女とどこかに行くのかな、それとも…なんて馬鹿なことばかり思い浮かんで、なんとなく千石君から目をそらした。

「みょうじさん?」
千石君はそんな私の顔を見て少し考えてから私を呼んだ。しかし私はどうにもその呼び掛けに答える気分ではなくて、無視すれば二の腕をがしりと掴まれて顔を近付けられた。

「せ、千石くん…?」
「そんな期待するような目しないでよ」
「え?今なんて、」
「放課後が駄目ならちょっと来て」
「っま、待って、どこに…!?」
「いいから」

かなり強引に引っ張られて慌てながらも千石君に連れてこられたのは今は使われてない空き教室だった。
千石君は空き教室に入るなり私を壁に押し付けて低い声で問い詰めてきた。

「ひとつ聞くけど何で俺のこと避けるのかな、君は」
「っ……べつに避けてなんか…」
「嘘ついちゃ駄目だよ」
「だ、だってそれは…!!」

私の頬に降れながら千石君じゃないみたいな顔で私を見つめる千石君に心臓が破裂しそうだった。ち、近い、こんな千石君の彼女さんに見られたら私は殺されてしまう!

「なんで避けてるって、その、気付いたの…」
「馬鹿だなぁみょうじさん」
「っ、ひ」

こめかみを厭らしい手付きで撫でられて鳥肌が立つ。しかし千石君はそれを楽しそうに見つめながら私に言った。

「それくらい気付くよ。俺は誰よりみょうじさんのこと見てるんだから、様子がおかしいなとか元気ないなとか、気付くに決まってる」
「っえ、そ、それって…」

私が視線を上げれば千石君は「やっと目あわせてくれたね」と笑った。そして続ける。

「君が好きだ」

一瞬、千石君は私を彼女さんと間違えているんじゃないかと思ったが「みょうじさん、」と耳元で囁かれたから間違いはないのだと理解。しかしそれでは間違いだらけだ。だって千石君、

「か、彼女…」
「え?」
「千石君、彼女いるのに、」

そうだよ千石君、浮気なんかしちゃいけない。
だけど千石君はきょとんと首を傾げて眉を潜めた。「誰が?」なんて聞いてくるものだからこちらもムキになってしまう。

「だ、だって…!この前、きょ、教室でっ…」
「教室?」
「女の人と、や、ってた…」
「ん?聞こえないよ、もっと大きな声で言ってくれないと」

その言葉で私は顔を真っ赤にした。そして千石君の顔を真っ直ぐに見つめながら叫ぶ勢いで言葉を発する。

「千石君、この前教室で女の人とヤってたじゃない!!」
「っえ!?ちょ、みょうじさ、声大き…っ!」

私の爆弾発言に千石君は大きく動揺した。がしりと私の肩を掴んでまた壁に押し付ける。動揺で加減を忘れているのかだいぶ痛かった。千石君は私の耳元にまるで内緒話でもするかのように唇を寄せて小さく問い掛ける。時折耳に千石君の唇が当たって顔に熱がたまるのを感じた。

「もしかして見てた?」
「っ、!あ、えと、わざとじゃなくて…」
「でも見てたんでしょ」
「…ご、ごめんなさい、」
「謝らなくて良いから、その時どう思ったかだけ教えてよ」
「え…?」

千石君は無意識かわざとか、私の耳にキスをした。私はそれに反応してしまい肩を上げる。それに気付いた千石君は、今度は耳を口に加えたまま喋りだした。これは間違いない、わざとだ。

「こんな俺、嫌だとか思った?だから避けてたの?」
「っ、ち、ちがくて…私は、ただ、っひあ、ぁっ」
「耳弱いんだ?」
「やっ、やめ、んうう、っ!」

ニヤリと笑った千石君が私の耳たぶを舐め始めた。くちゅりと舌を絡めながら時折歯を立てられる。止まらない刺激にびくびくと震えていれば千石君は「"私はただ"、その続きは?」と聞いてきた。

「し、ショックで…っ」
「…え?」
「私なんか、相手にされないって思ったから…だってあんな、可愛い彼女がいるのに、私なんか…」
「だから俺のこと避けてたの?」
「そ、それなのに千石君、私に話しかけてきた、から…よ、余計気まずくて…」

震えた声でそう言うと、千石君は私から少し離れて真っ直ぐに私を見つめた。

「それって…俺のこと、好きってこと…?」
「っ、え、あ」
「答えてよ、みょうじさん」
「…好き、だよ。ずっと前から、千石君のこと…――っ、わ!?」

途端に千石君は私を抱き締めて離さなかった。さっきみたいに私を追い詰める空気はもう消えていて、私は安心しながら千石君の体温を感じた。ひしひしと伝わってくる温かさ。でもひとつだけ心残りで、

「あの、千石君…」
「何だい?」
「じゃあ結局…あの女の人は…?」

彼女じゃないなら何なんだろう。まさか、まさか。思いたくはないけれど、

「もしかして千石君、」
「っちょっと待って!ちゃんと話すから!え、えっと…」
千石君はバツの悪そうな顔をした。非常に言いにくそうなその口振りに私は思わず下唇を噛み締める。千石君は私から視線をずらして話し出した。

「あのね?俺、みょうじさん見てるとすごいドキドキして我慢できなくなるんだ、」
「が、まん…?」
「それは何となく察してよ…俺だって男なわけだし、まあそれは誰にだって欲情するわけじゃないけどみょうじさんとは一緒に笑いあったりとかしたい、でもみょうじさんの笑顔とか見るたびに、なんか…やっぱ我慢できなくて。でもみょうじさんのこと汚したりなんてできるわけないだろ?だから俺、えっと」
「せ、千石君の馬鹿!」
「え!?」

今の話ではいまいち理解できなかったが、何となく察することができた。それと同時にすごく許せなくて、嫉妬心が溢れ出す。

「じっじゃあやっぱりあの女の人は、せっ、セフレだったってことじゃない!」
「みょうじさん!?な、なんで泣いて…!」
千石君の胸板をべしべし叩きながら私は泣き出した。それなのに千石君は私が泣いた理由すらよく分かっていないようで、何となくムカついてしまう。千石君は女の子が大好きなくせして女の子の気持ちとか、実はあまり分かってないんだと思った。そりゃ確かに女の子を相手にする時の千石君はすごくフレンドリーで女慣れもしているけれど。肝心なところは、何も分かってないじゃない。

「ばか、千石君の馬鹿…!なん、で、っ」
「っご…ごめん…」
千石君が私を抱き締めた。その手はすごく優しくて、思わず息を殺してしまう。

「わ、私が泣いてる理由…知らない、くせに」
「うん分からない。でも俺、みょうじさんのこと、ほんとに傷付けたくないんだよ…」
「じゃあ、」
私は千石君の胸に埋めていた顔を上げて、千石君を見つめた。そして涙ぐみながらいい放つ。

「私でいいから」
「、え?」
「千石君が、よ、欲情したなら…私を使っていいから…!だから、もう…」
「みょうじさん、」
「もう私以外の人とあんなことしないで…!」

お願いだから、と小さな声で言うと、千石君は両手で私の顔を掴み唇をくっつけた。
突然のことに頭が回らず、抵抗すらできない。しばらくくっついた唇は、なかなか離れることをしなかった。

「ん、っふぁ」
「みょうじさん…好きだよ、っん」
「わ、私、だって…」
「ねえ」
「っ…?」
「さっき言ったこと、本気にしていい?」

千石君がそう問いかけたのと、千石君の固くなった自身がズボン越しに私の腰の辺りに擦り付けられたのは同時だった。


20130316
力尽きた…