nanametta | ナノ
「な、何かごめんね、変なこと聞いて…」

如月君は黙ったまま何も言わない。その反応だと女子が苦手なのは当たりらしいが指摘されるのは嫌だったのだろう、もう一度「ごめん」と謝り頭を下げようとすると如月君がぎこちなく私に近付き、机の上にある貸し出し表を手に取った。

「今日の仕事は僕一人でやる」

また、昨日と同じ言葉だ。やっぱり苦手な女子と一緒に仕事なんてたまったもんじゃないのかもしれないが、私は大きく首を横に振る。すると如月君はびっくりしたように目を丸くした。

「何故だ」
「だって、図書委員は、私と如月君だから」
「…僕と一緒に仕事をしたとしても、また不快な気持ちになることは目に見えているだろう」
「え…」
「昨日も……心配してくれた名字に酷い態度を取ってしまった」

もしかして如月君は昨日のことを気にしていたのだろうか。バツの悪そうな顔でそう言った如月君に、私は思わず笑顔を浮かべた。如月君はそんな私に少し戸惑った表情で目をやる。

「何を笑って……」
「だって、なんか想像つかないから」
「…想像?」
「頭も良くて運動もできてモテるのに、意外だなって」
「…!」

笑いを堪えるようにして口元を隠せば、やっぱり如月君は恥ずかしそうに目を逸らした。女子とは目を合わせるのもダメらしい。
 どうして如月君があんな態度を取ったのか、ようやく分かってどこか安心した。嫌われていなかったし、何だか意外な一面を知ってしまったみたいで面白いとさえ感じる。だから余計に、一緒に仕事をしたいと思った。

「帰れなんて言わないでよ」
「だがやはり…」
「無暗に話しかけたりしないし、無理に話さなくて良いから」

逆にその方が如月君も楽でしょ?と笑いかければ、如月君は悩んだものの素直に「分かった」と言ってくれた。
心なしか、間の1.5メートルが少しだけ縮まった気がする。もちろん気持ち的な意味で。


「明日からまたよろしくね」


今日の会話はこれで終わったわけだが、その後の空気は昨日の何倍も良いものだったから、実は結構悩んでいたことが馬鹿馬鹿しく思えてしまった。如月君は女子が苦手。だから無暗に近寄ったり話しかけたりしてはいけないし、如月君が図書委員の仕事中に女子に話しかけられることがあったら極力助けてあげた方が良い。真面目で大人っぽくてどこか冷めたところもある。
だけど、如月君は実は良い人だ。


 20141222