nanametta | ナノ
「じゃあ図書委員のじゃんけん始めまーす」


 それは春になって三回目のホームルームで行われた委員会決め。もうだいたいの委員会にそれぞれ二人や四人ずつクラスメイトが振り分けられている中で、やっぱり、図書委員が寂しく残った。
雑用とかとにかく面倒な仕事が多いことで有名の図書委員に好んで立候補する人はおらず、それなら仕方あるまいと始まったのはもはやこのクラスでは恒例の"やりたくない人の中からじゃんけんで負けた人がやろう"というルール。
皆はそわそわしながら片手を上げてじゃんけんの準備をした。きっと皆同じことを考えているだろう。

とても、やりたくない、と。

そんなこんなで渋々始まったじゃんけん大会。心なしか皆の顔が暗い気がする。早い段階で抜けていった人たちはイエーイとか言って飛び跳ねていた。そりゃそうだよね。私も早く飛び跳ねる側に行きたい。
そんなことを考えた時だった。

 じゃーんけーんぽん。


「………あっ」
「はい、綺麗にぴったり二人負け!図書委員は名字さんと如月君ね!」












 簡単に言ってしまえばドン底に落とされた気分だ。
早く飛び跳ねる側に行きたいなんて考えたからバチが当たったんだろうか。え、でもそれって皆絶対考えてたことだよね?そうだ、こんなの所詮運なんだ。私はこう、何というか図書の神様に選ばれた勇者みたいなものなんだ。
(だめだ自分で言っててわけが分からない………)

ふと黒板を見ては、図書委員という文字のすぐ下に書かれた自分の名字にまた溜め息が出る。こんなことになるなら他の委員会に立候補しておくべきだった。うん来年からは絶対そうしよう。
そもそも図書委員とはどんな仕事をするんだろうか。本の整理とか?本を運んだりとか?あ、図書室で貸し出しの受け付けとかやったりするのかな。とりあえず、本が好きじゃないとやってられないような仕事ばかりな気がする。どうしようもう学校やめようかな、とかそんなことまで考え始めた私に友達が何とも言えない顔で声を掛けてきた。

「名前、ドンマイだったね」
「もう最悪だよ……」
「でも如月君と一緒なんだから案外ラッキーなんじゃない?」
「はい?」
「ほら、如月君ってかっこいいし勉強もできるし」
「…そういえば……」

一緒に図書委員やる人、如月君だったっけ。落ち込みすぎて忘れていた。
ざわつく教室内を見渡して如月君の姿を探せば、彼もまた深刻そうな顔で机と睨めっこをしている。

「…如月君ってどんな人なんだろ。話したことないから分かんないや」
「そういえば誰かと話してるとこあんまり見ないね」
「だよね……」

思い返してみれば如月君はいつも一人で居るか一部の男子と静かに話している比較的大人しい子だったような。

「…なんかすごい不安」
「誰かに代わってもらえば?相手が如月君なら一人くらいは代わってくれる子いると思うよ」
「その手があったか…!」


長く続きそうな暗闇に少しだけ光が差し込んだ。

 恐怖の図書委員会は今日の放課後三時半から。先生によると、もう早速仕事をさせられるらしい。上級生の図書委員の人がいるからその人に教わりながら仕事をしてくれと言われた。タイムリミットはあと五時間。こうして私は図書委員を代わってくれる女の子を探すための旅に出るのである。


 20141220